「建築設計は業種に分かれてるって聞いたけど、どういうこと?」
「業種によって仕事が違うの?建築設計ってひとつの職業じゃないの?」
こんな疑問をお持ちではないでしょうか。
建築設計とは、建築物や設備の設計に関わる仕事を包括的に表した言葉で、下記のように3つの業種に分かれています。
外観デザインや内装の設計を行う建築設計の花形! |
土台と骨組みの設計で建築物の安全性を担う! |
給排水、空調、電気設備の設計でインフラを支える! |
上記のように、どんな建物も、1人の設計者ではなく、外側、骨組み、設備と業種別に分担して設計を行っているのです。
といっても、これだけでは各々の業種の具体的な仕事内容や、あなたに向いている業種は3つのうちのどれなのか判断がつかないですよね。
そこで本記事では、建築設計の3つの業種の仕事内容や働き方、年収、必要なスキルなどを詳しく解説します。
この記事を読めばわかること |
|
記事を読めば、建築設計の業種各々の内容が把握でき、どの業種が自分に向いているかの判断ができるようになります。
設計士に憧れている学生の方や、転職を検討している人は、ぜひ最後まで読み進めてもらえたらと思います。
目次
1.建築設計には3つの業種がある
建築設計の業種は大きく、「意匠設計」「構造設計」「設備設計」の3つに分かれています。
業種 | 仕事内容 | 主な職場 |
見た目の設計 | 外観デザインや |
|
土台の設計 | 建築物の土台と |
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設備の設計 | 給排水、空調、電気設備の |
|
建築設計と一口にいっても、業種によって仕事内容が違います。この後の章で解説しますが、収入にも差があります。
CHECK!
【建築設計を人の体にたとえると…】
建設設計の業種は、イメージをつかみやすくする為、よく人の体にたとえられます。
- 意匠設計 → 「外見(見た目)」
- 構造設計 → 「骨格や筋肉」
- 設備設計 → 「内蔵や血管」
次章からそれぞれの業種について詳しく解説していきます。
あなたに向いているのはどの業種でしょうか。考えながら見ていってください。
2.建築設計の業種①|意匠設計
意匠設計とは、建築物の外観デザインや内装の設計など、建築設計の中心的な役割を担う仕事です。
一般の人が、建築設計と聞いてイメージする仕事は、大体において意匠設計に該当します。
構造力学などによる強度・耐力性なども加味された設計で、全ての建築物や土木構造物で必要な業務です。
2章では、意匠設計について詳しく解説します。
- 意匠設計の主な仕事内容
- 意匠設計者の年収や月収
- 意匠設計に必要な資格
- 意匠設計者に求められるスキル
- 意匠設計者が働く職場
- 意匠設計の仕事に向いている人
建築設計の花形ともいえる、意匠設計とはどんな仕事なのか?を見ていきましょう。
2-1.意匠設計の主な仕事内容
意匠設計の主な仕事は、建築物の外観や内部のデザイン、設計です。
施主(クライアント)と相談を重ね、要望やテーマに沿った間取りや造作など建築物全体のデザインや設計を行います。
また、他2つのセクション(構造設計・設備設計)をとりまとめるリーダー的な存在として、建築設計全体のプロデューサーのような役割を担うことも多くなります。
意匠設計の仕事の大まかな流れを下記にまとめました。
まずは、施主の要望を受け取り、どんな建築物にするのか?を考えて方針を立てていくところから、意匠設計の仕事は始まります。
意匠設計の仕事の流れ |
① 施主(クライアント)の要望(デザインや予算)を聞く |
② コンセプト(方針)を定め、基本設計をする(大まかな図面製作) |
③ 施主に確認する(正式契約) |
④ 詳細設計(細かい部分の設計)をする |
⑤ 各分野との調整(打ち合わせ)をする |
⑥ 工事監理(設計通りに工事が進んでいるかをチェック)をする |
⑦ 施主に引き渡す |
④〜⑥は、話し合いをはさんで、何度も繰り返されます。
2-2.意匠設計者の年収
意匠設計者の年収は、会社の規模や扱う案件、キャリアによって差異があるので一概にはいえませんが、基本的に他の職業に比べてやや高い傾向にあるようです。
求人サイトや転職サイトの情報を元に想定する年代別の年収相場は以下になります。
20代 | 300万円〜400万円 |
30代 | 400万円〜500万円 |
40代 | 500万円〜800万円 |
※求人サイトや転職サイトからの目安の数値となります。
ただし、初任給は半分程度の約21〜22万円が相場といわれています。また、年収も月収も会社の規模やキャリアによってかなり幅があります。
2-3.意匠設計に必要な資格
意匠設計に携わるためには、下記のような建築士の国家資格が必要です。
意匠設計者をめざす場合、ほとんどの人が、まずは二級建築士の取得から始めます。
二級建築士を取得しないと、一級建築士の受験資格が得られないからです。また、一級建築士の免許登録には、試験の合格後に4年以上の実務経験が求められます。
二級建築士の受験資格は、大学、短期大学、専門学校、高等学校、職業訓練校等において、指定科目を修めて卒業すると得ることができます。
建築士の資格試験について、詳しくは公益財団法人|建築技術教育普及センターにて、ご確認ください。
2-4.意匠設計者に求められるスキル4つ
外観デザインや間取りの設計など建築物の中心的な役割を担う「意匠設計者」に求められるのは、次のようなスキルです。
- 建築デザインのセンス
- 図面の作成能力
- 構造や設備などの知識
- 高いコミュニケーション能力
それぞれみていきましょう。
2-4-1.建築デザインのセンス
意匠設計者には建築デザインのセンスが求められます。
デザインや間取りの設計は、全て意匠設計の仕事です。
クライアントを納得させる魅力的なデザインセンスがなければ、意匠設計の仕事は成り立ちません。
2-4-2.図面の作成能力
合わせて必要なのが、図面の作成能力です。
建物の設計は、意匠設計者が平面図や立面図、断面図といったプランを図面(意匠図)に描くところから始まります。
平面図 | 建物を床上1~1.5mの位置で切断し、 |
立面図 | 建物の外観の直立投影面を描いた図面で、 |
断面図 | 建物を垂直方向に切断した建物断面図で、 |
構造設計や設備設計は意匠図を元に作成するので、まずは意匠図がきちんとデザインを反映していなければなりません。
意匠設計では魅力的なデザインを考えるだけでなく、図面に落とし込んでいく能力も求められるのです。
2-4-3.構造や設備などの知識
構造や設備などの知識も求められます。
なぜなら、意匠設計者は、構造設計、設備設計をとりまとめる建築設計全体のプロデューサーのような役割を担うからです。
具体的には、下記のような役割を担います。
- 構造設計者に意匠図で建築主のデザインに対する要望を伝え、構造要素となる梁や柱などの構造図をチェックしたり、連携して設計をする
- 設備設計の描いた設備図が建築主の要望に沿っているかをチェックし、構造図と共に取りまとめて詳細設計に反映する
意匠設計者は、業種を問わず、建築設計全体を理解していなければなりません。
2-4-4.高いコミュニケーション能力
意匠設計者にはセンスや知識に加えて、高いコミュニケーション能力が必要です。
全体のプロデューサーの役割を担う意匠設計者は、クライアント、構造設計、設備設計との架け橋のような存在です。
細かな打合せや調整をたえず行っていくため、コミュニケーション能力が問われます。
2-5.意匠設計者が働く主な職場4つ
意匠設計の業務に就く人(意匠設計者)が働く職場は、主に4つ挙げられます。
- アトリエ事務所
- 組織設計事務所
- 建設会社
- ハウスメーカー
それぞれ、どのような職場なのか、簡単に説明します。
2-5-1.アトリエ事務所
アトリエ事務所は、個人の建築家が主宰する建築設計事務所です。
比較的小規模な人数で運営され、一般的には建築家個人の作家性、デザイン性が強く反映される傾向にあり、意匠設計者の、独創的なセンスが発揮しやすい職場でしょう。
少数精鋭で回している所が多く、信頼を得れば、一からの設計する機会が与えられる可能性があります。
アトリエ事務所は基本的には意匠設計者だけが所属し、構造や設備等は外注する場合が多いです。
2-5-2.組織設計事務所
組織設計事務所は、設計士を多く抱える大規模な建築設計事務所です。
意匠・構造・設備のすべての設計が可能な組織で、意匠設計者は、この中の意匠設計部門に属することになります。
組織全体で設計を行うため、作家性やデザイン性の高さというよりも、機能性や効率性などを考慮した堅実なデザインが多い傾向にあります。
一概にはいえませんが、意匠設計者がオリジナリティのある能力をふるう場面は、アトリエ事務所よりは少ない傾向です。
2-5-3.建設会社
建設会社にも設計部があり、意匠設計者が在籍しています。
設計の方針は会社ごとに違いますが、主体が建設会社であるため、多くは施工部門と連携した設計が求められます。
建設会社には、下記のようなメリットとデメリットがあります。
メリット | 自社の施工技術を活用しながら細かく設計を行い、 |
デメリット | 施工者からの要望を断りづらく、 |
施工は請け負わない設計事務所と違い、自社利益優先で、施工者からの要望や提案を図面を変更してでも飲まなくてならないことが出てきます。
会社全体で連携して1つの工事を進めていく達成感がある反面、設計者の自由度は高くありません。
2-5-4.ハウスメーカー
ハウスメーカーに勤めた意匠設計者は、戸建住宅、マンション、アパートなど比較的小規模な住宅を扱います。
ハウスメーカーでの設計業務の特徴は、設計段階における全ての行程を、ほぼ一人でやることです。
扱う住宅が小規模なので、意匠、構造、設備と通常は3つの業種に分かれて設計するものを、全てひとりの設計者が行うのです。
意匠設計者も、構造や設備を含めた総合的な設計力が求められます。
とはいえ、ハウスメーカーが関わる建物の構造はある程度最初から決まっていることが多く、間取りや配置の調整が業務のメインになることもあります。
CHECK!
【意匠設計者のキャリアアップ】
意匠設計者のキャリアアップでは、最初の就職先で経験とスキルを積み、
- より大きな設計事務所へ転職する
- 自分のしたいデザインの設計ができる設計事務所へ転職する
- 独立して自分の事務所を構える
などが考えられます。
2-6.意匠設計の仕事に向いている人
ここまでのまとめとして、意匠設計の仕事に向いている人を挙げておきましょう。
意匠設計の仕事に向いているのはこんな人です |
|
意匠設計者は、想像力に富み、自分の描いた建築のデザインを実現したい!という思いの強いクリエイティブな人に向いているといえます。
3.建築設計の業種②|構造設計
構造設計とは、建物の基礎や骨組みの設計など、建築物の安全性を担う仕事です。
建築物の外観や空間など見た目を創造するのが意匠設計とするなら、建築物の中身(骨組み・骨格)を設計するのが構造設計と考えるとわかりやすいでしょう。
3章では、構造設計について次の順に解説します。
- 構造設計の主な仕事内容
- 構造設計者の年収や月収
- 構造設計に役立つ資格
- 構造設計者に求められるスキル
- 構造設計者が働く職場
- 構造設計の仕事に向いている人
自然災害も考慮しつつ、倒壊しない安全な設計を考案する構造設計とはどんな仕事なのか?を見ていきましょう。
3-1.構造設計者の主な仕事内容
構造設計の主な仕事は、建物の土台と骨組みの設計です。
建築物の基礎や柱、梁、床、屋根などの耐力・形状・配置を、建築基準法に適合するように決定し、安全性能を満たした設計を行います。
構造設計者(構造設計を行う人)の仕事の大まかな流れを下記にまとめました。
意匠設計が決定した建築をもとに、構造の要素となる柱や梁の配置などの構造計画を立てることから構造設計の仕事は始まります。
構造設計の仕事の流れ |
① 構造計画を立てる(※1) |
② 設計荷重を算定する(※2) |
③ 柱、大梁、耐力壁(※3)の設計をする |
④ 基礎の設計をする |
⑤ 構造図の作成をする |
⑥ 建築確認申請(※4)をする |
⑦ 工事監理(設計通りに工事が進んでいるかチェック)をする |
(※1)構造計画:構造種別、架構形式、柱の位置、梁やや耐力壁をどこに設置するか、耐震等級をどうするかといった計画で、構造設計の中でも要となる部分です。
(※2)設計荷重の算定:床や壁の仕上げの種類や厚さから1㎡当りの固定荷重を計算し、部屋の用途に応じた設定をします。また、建設地に応じた地震荷重、風荷重、積雪荷重の設定を行います。
(※3)耐力壁:地震や風などの水平荷重に抵抗する能力を持つ壁のことです。
(※4)建築確認申請:建築確認申請の構造に関する部分の対応は構造設計者が行います。
工事の進行の過程で、クライアント、意匠設計、設備設計との打合せや調整が複数回行われます。
3-2.構造設計者の年収
構造設計者の年収は、会社の規模や扱う案件、キャリアによって差異があるので一概にはいえませんが、基本的に他の職業に比べてやや高い傾向にあるようです。
求人サイトや転職サイトの情報を元に想定する年代別の年収相場は以下になります。
20代 | 350万円〜450万円 |
30代 | 500万円〜560万円 |
40代 | 600万円〜800万円 |
※求人サイトや転職サイトからの目安の数値となります。
ただ、会社の規模やキャリアによってかなり幅があります。たとえば、大手ゼネコンの構造設計一級建築士の年収は、1000万円を超える事も珍しくありません。
3-3.構造設計に役立つ資格
構造設計に携わるためには、下記のような建築士の資格取得が求められます。
規模の大きいものを扱うことが多い構造設計者には、一級建築士の資格取得が必須です。
もし、二級建築士しか取得していないと、設計できる範囲に違いがあるため、下表のように大きい建物の構造を設計できないからです。
一級建築士 |
|
二級建築士 |
|
また、構造設計一級建築士は、構造技術の発達により大規模な建築の構造計算には一級建築士よりもさらにハードルが高い資格制定が必要として、2008年に制定された資格です。
受験資格として、「一級建築士資格を取得してから5年の構造設計の実務経験」が求められます。
難易度が高い資格ですが、その分持っている人も限られるため大変需要が高く、年収アップにつながるなど、転職やキャリアアップに有利に働きます。
構造設計一級建築士の取得は必須ではありませんが、構造設計者になる上では、目指すべき資格といえます。
建築士の資格試験について、詳しくは下記のサイトでご確認ください。
公益財団法人|建築技術教育普及センター
公益財団法人|建築技術教育普及センター|構造設計一級建築士講習 (制度全般)
CHECK!
【構造設計者のキャリアパス】
構造設計者は実績が重要な仕事であり、長期的なキャリアプランを持つのが成功の道筋です。参考として、キャリアパスのモデルケースをご紹介しましょう。
STEP1.設計事務所などで勤務しながら5年間の構造設計の実績を積む
(一級建築士の資格取得には5年以上の実績が必要)
STEP2.一級建築士の資格を取得する
STEP3.一級建築士として5年以上の実績を積む
(構造設計一級建築士の受験資格を得るために一級建築士として5年以上の実績が必要)
STEP4.構造設計一級建築士の資格を取得する
構造設計一級建築士は、大手企業から引く手あまたの人材となります。大手ゼネコンでの構造設計一級建築士の年収は、1000万円以上といわれています。
3-4.構造設計者に求められるスキル
建物の土台と骨組みの設計をする「構造設計者」には、資格以外にも、次のようなスキルが求められます。
- 数学や物理学の知識
- 建築に対する洞察力や創造力
- 高いコミュニケーション能力
それぞれみていきましょう。
3-4-1.数学や物理学の知識
構造設計者には、数学や物理学の知識が必須です。
構造設計は、台風や地震など自然の脅威から建築物を守る役割を担っています。柱や梁などの構造がしっかりしていてはじめて、建物は機能や安全を維持できるからです。
重力や地震力などの想定される荷重に対して骨組みに生じる力を求め、それに見合った断面を決める作業(構造計算)を行って、条件を満たす最適な骨組みを設計しなくてはなりません。
また、建物が大きな力を受けたときに耐えうる強度を算定するなど、力学的な解析をしていかなくてはなりません。解析には、モーメントなど物理の知識が必要不可欠となります。
このように、構造設計には、数学や物理学の知識が求められます。
3-4-2.建築に対する洞察力や想像力
建築に対する洞察力や想像力も、構造設計者に必要なスキルです。
初期段階では意匠設計のイメージが漠然としていることもある中で、方向性をはじめ、下記のようなさまざまなことを汲み取っていかなくてはならないからです。
- 建築主からどんな建物が求められているか
- 意匠設計の意図する建築空間の構成、形状、大きさ、高さはどのようなものか
- 建物の環境条件はどんなものか
- 場所の地盤はしっかりしているか
- その場所で地震や強風、大雪などが発生する可能性はどの程度であるか
構造設計者は、建築物に対して洞察し、自分で想像していく能力を持たねばなりません。
3-4-3.高いコミュニケーション能力
構造設計者も、意匠設計者と同様に高いコミュニケーション能力が求められます。
構造設計は、意匠設計に基づいて行うため、意匠設計者とのコミュニケーションは欠かせません。
質問をしたり、意匠設計者の相談に乗ることもありますし、打ち合わせを重ね、連携して仕事を進めなくてはなりません。
また、意匠設計だけでなく、工事はチームで行うため、設備設計者や現場監督との意思疎通も重要になります。
コミュニケーション能力に優れた人ほど、構造設計の仕事をスムーズに進められます。
3-5.構造設計者が働く職場
構造設計者が重宝される職場は、主に4つ挙げられます。
- 組織設計事務所
- デベロッパー(不動産の開発業者)
- ゼネコンの設計部
- ハウスメーカー
それぞれどんな職場なのか簡単に説明しますので参考にしてください。
3-5-1.組織設計事務所
組織設計事務所は、設計士を多く抱える大規模な建築設計事務所です。
意匠・構造・設備のすべての設計が可能な組織で、構造設計者は、この中の構造設計部門に属することになります。
組織設計事務所では、公共施設、民間施設など中規模以上の事業系物件を扱うことが多くなります。
1社で意匠設計、構造設計、設備設計から施工監理までできることが特徴で、構造設計者は他の業種と連携して仕事を進めます。
3-5-2.デベロッパー(不動産の開発業者)
デベロッパーは、マンションやビル、あるいは街全体の不動産を開発する専門業者です。
デベロッパーとは不動産の開発業者のことで、比較されることの多いゼネコンが実際の工事をすべて請け負う工事着工側であるのに対し、企画側になります。
たとえば、「〇〇ヒルズ」といった複合商業施設、大型マンションの開発をするのがデベロッパーの業務です。
デベロッパーの建築部門には、構造設計者が所属しています。
開発する不動産の信頼性につながるとして、デベロッパーでの構造設計者は立場もポストも高い事が多く、もちろん年収面でも優遇されることが多くなっています。
3-5-3.ゼネコンの設計部
ゼネコンの設計部は、構造設計者が活躍する職場のひとつです。
先述のように、企画側のデベロッパーに対して、ゼネコンは工事の着工側で、建設会社として各種建設工事を発注者から直接請け負う企業になります。
企業規模にもよりますが、公共事業など大規模な工事を請け負うこともあります。特に中堅以上の規模では、建築物の安全性、信頼性を重要と捉え、構造設計を軽視しない傾向にあります。
構造設計者が活躍できる土壌が築かれているということです。
3-5-4.ハウスメーカー
ハウスメーカーも建設会社ですが、こちらはゼネコンのように大規模な工事を扱うことはなく、基本的に個人の住宅工事を請け負います。
昨今、ハウスメーカーでも構造設計者の採用が増えています。耐震性等への信頼のため構造設計を重要視する傾向にあるからです。
構造設計者の立場も高く位置づけられ、設計事務所と比べて年収面でも優遇される傾向にあります。
CHECK!
【構造設計者のキャリアアップ】
構造設計者のキャリアアップでは、最初の就職先で経験とスキルを積み、
- より大きな設計事務所へ転職
- 独立して自分の事務所を構える
- 大手のゼネコンやデベロッパーに転職する
などが考えられます。
大手のゼネコンやデベロッパーでは、他にくらべて高い収入が期待できます。
3-6.構造設計の仕事に向いている人
ここまでのまとめとして、構造設計の仕事に向いている人を挙げておきましょう。
構造設計の仕事に向いているのはこんな人です |
|
構造設計は、数学や物理学が得意で合理的な思考ができる人に向いています。
数年先までを見越した綿密な計算と図面の作成能力と共に、建物の安全性を確保したい!という、探究力の強さも求められます。
4.建築設計の業種③|設備設計
設備設計とは、建築物が建物として機能するために必要な電気・空調・給排水設備などのインフラを設計する仕事です。
地味なイメージを持つかもしれませんが、設備の専門家としてのノウハウが求められる、非常に需要の高い業種になります。
4章では、設備設計について次の順に解説します。
- 設備設計の主な仕事内容
- 設備設計者の年収や月収
- 設備設計に役立つ資格
- 設備設計者に求められるスキル
- 設備設計者が働く職場
- 設備設計の仕事に向いている人
建築物のインフラを設計する設備設計とはどんな仕事なのか、見ていきましょう。
4-1.設備設計者の主な仕事内容
設備設計の主な仕事は、給排水、空調、電気設備の設計です。
設備設計では、建物の構造や外観などに関する設計は行いません。
クライアントの要望に基づき、コストなどを配慮しながら、給排水や空調、電気、昇降機などの設備設計を行います。
設備設計者の仕事の大まかな流れを下記にまとめました。
まず、クライアント(建築主や新たな設備設置を検討している人)との打ち合わせから、設備設計の仕事は始まります。
設備設計の仕事の流れ |
① クライアント(建築主や新たな設備設置を検討している人)と打ち合わせて要望を聞く
|
② コスト面や快適性などを考慮して見積もりとプラン(基本設計)を立てる |
③ クライアントに提案・確認する |
④ 詳細設計をする |
⑤ 積算・見積もり(どれくらいの費用がかかるか計算)をする |
⑥ 各分野との調整(打ち合わせ)をする |
⑦ 工事監理(設計通りに工事が進んでいるかチェック)をする |
⑧ 竣工検査(完成した建築物に問題がないかの検査)をする |
各分野との調整や打ち合わせは、必要に応じて複数回行われます。
4-2.設備設計者の年収
設備設計者の年収は、会社の規模や扱う案件、キャリアによって差異があるので一概にはいえませんが、基本的に他の職業に比べて高い傾向にあります。
大手の設計事務所やゼネコンの設備設計者の年収相場は下記のようになっています。
20代 | 400万円〜550万円 |
30代 | 650万円〜750万円 |
40代 | 850万円〜900万円 |
※求人サイトや転職サイトからの目安の数値となります。
ただあくまでも大手の場合で、中小規模の会社では100万円程低くなると考えられるので、大手とそれ以外で差があることも心に留めておきましょう。
4-3.設備設計に役立つ資格
設備設計の仕事には、必須資格はありません。
資格がなくても実務経験を積み重ねることで、管理職を目指したり高年収を目指すなど、キャリアアップも可能です。
ただ、下記のような資格を持っていれば仕事で役立ち、待遇にも有利に働きます。
「設備設計一級建築士」は、設備設計に特化した一級建築士。
一級建築士の上位資格で、取得すると設備設計のスペシャリストとして、3階以上、床面積の合計が5000メートル以上の建築物の設計ができるようになります。
受験資格として、「一級建築士資格を取得してから5年の設備設計の実務経験」が求められます。
難易度が高い資格ですが、その分持っている人も限られるため大変需要が高く、設備設計に携わる人にとっては非常に価値のある資格となっています。
建築士の資格試験について、詳しくは下記でご確認ください。
公益財団法人|建築技術教育普及センター
公益財団法人|建築技術教育普及センター|設備設計一級建築士講習 (制度全般)
CHECK!
【設備設計者のキャリアパス】
設備設計者のキャリアパスのモデルケースをご紹介しましょう。
STEP1.設計事務所などで勤務しながら5年間の設備設計の実績を積む
(一級建築士の資格取得には5年以上の実績が必要)
STEP2.一級建築士の資格を取得する
STEP3.一級建築士として5年以上の実績を積む
(設備設計一級建築士の受験資格を得るために、一級建築士として5年以上の実績が必要)
STEP4.設備設計一級建築士の資格を取得する
設備設計一級建築士は、大手企業から引く手あまたの人材となります。大手ゼネコンでの設備設計一級建築士の年収は、1000万円以上といわれています。
4-4.設備設計者に求められるスキル
電気・空調・給排水設備などのインフラを設計する「設備設計者」には、次のようなスキルが求められます。
- 建物の設備に関する幅広い知識
- 計算&解析のスキル
- CADソフトのスキル
- 危険を予測する能力
- 高いコミュニケーション能力
それぞれみていきましょう。
4-4-1.建物の設備に関する幅広い知識
建築物のインフラを設計する設備設計者には、下記のような建物の設備に関する幅広い知識が求められます。
- 配管や上下水道の設備
- 空調設備
- 照明やコンセントの設備
- インターネット等の電気設備
設備について知っているだけでなく、建築物全体の設備調整能力、環境に適応した設備をイメージする力も必要になります。
4-4-2.計算&解析のスキル
設備設計者には、計算や解析のスキルが必須となります。
設備設計においては、計算や解析を行わないと結論が出せない事項が多く存在するからです。
たとえば、設備図を作るのに、細い給水管1つでもきちんと計算に基づいて大きさや位置を決めます。
また設備設計では、初期段階から気流解析や温熱環境解析などが求められます。
よって、設備設計者には計算や解析のスキルが必要となるのです。
4-4-3.CADソフトのスキル
設備設計者には、CADソフト(パソコンで2次元の図面を作るツール)のスキルが求められます。
設備設計では、ほとんどの場合、作図技法としてCADソフトが用いられます。
ですので、CADが扱えることも設備設計者の必要条件の1つといえます。
4-4-4.危険を予測する能力
設備設計者には、危険を予測する能力が必要です。
設備は人体に危険を及ぼすこともあるため、下記のような危険予測能力が求められます。
- 漏電しないか
- ガスは漏れないか
4-4-5.高いコミュニケーション能力
設備設計者には、高いコミュニケーション能力が求められます。
他の設計者や関係部署と打ち合わせながら仕事を進めるためです。
- 意匠設計者や構造設計者と打ち合わせをする
- 設備メーカーに指示したり打ち合わせをする
- 現場の作業員に説明や指示をする
設備設計者は、日々、このようなことを繰り返し行っていかなければなりません。
また、設備の知識がないクライアントの要望を汲み取ったり、こちらの意向をわかりやすく伝える能力も求められます。
4-5.設備設計者が働く職場
設備設計者が働く職場は、主に3つ挙げられます。
- 組織設計事務所
- 設備設計事務所
- ゼネコンの設計部
それぞれどんな職場なのか簡単に説明します。
4-5-1.組織設計事務所
組織設計事務所は、設計士を多く抱える大規模な建築設計事務所です。
意匠・構造・設備のすべての設計が可能な組織で、設備設計者は、この中の設備設計部門に属して設計業務を全般を行います。
基本的に設計の構想段階からプロジェクトに関わり、一から設備設計をするため、自身の考えを大きく設計に反映することができます。
設備設計で自身の設計提案を実現させたい人には、おすすめの職場です。
4-5-2.設備設計事務所
設備設計事務所は、その名の通り設備設計に特化した設計事務所です。
エネルギーコンサルティング、計算・シミュレーション支援、ファシリティマネジメント等の設計以外の業務も行います。
設備設計専門の会社なので、プロジェクトにおいては他社の意匠、構造設計等と共同で設計を進めていきます。事務所規模にもよりますが、エネルギーセンターのような難易度の高い設備設計にも携わることがあります。
設備のスペシャリストをめざしたい人に、特におすすめしたい職場です。
4-5-3.ゼネコンの設計部
ゼネコンの設計部は、社会的にコストも含めた総合的な設計が求められている組織です。
ここでの設備設計者の仕事の特徴は、延長上に施工があるため、コストや施工性を考慮した設計が必要となることです。
設計事務所に比べると、オリジナリティ、デザイン性などを発揮する余地は少なくなります。
コストも含めた総合的な設計が求められる組織で、給与面では他より安定している職場といえます。
CHECK!
【設備設計者のキャリアアップ】
設備設計者のキャリアアップとしては、新卒で中小の設計事務所やゼネコンに入社して経験とスキルを蓄え、数年後に大手に転職する人が多いようです。
建築業務のほぼすべての工程に知識を持つ設備設計者は需要が高く、設計事務所以外の転職先として、
- 不動産会社
- 大学や病院等で設備機器の管理やメンテナンスを行う
- 設備メーカーや販売会社
- 行政(役所)の建築関連の部署
などが考えられます。
4-6.設備設計の仕事に向いている人
ここまでのまとめとして、設備設計の仕事に向いている人を挙げておきましょう。
設備設計の仕事に向いているのはこんな人です |
|
設備設計に向いているのは、構造や設備に興味があり、新しい技術への好奇心が旺盛な人です。
建物の見た目の設計ではないので、縁の下の力持ちといった性分の人にマッチする仕事です。
5.【徹底比較】建築設計の3つの業種を項目別に比べてみよう
意匠設計、構造設計、設備設計の3つの業種が把握できたでしょうか。
5章では、項目別に3つの業種各々を比較していきます。
- 仕事内容
- 年収相場
- 必要な資格
- 求められるスキル
- 働く職場
- 向いている人の特徴
自分はどれに向いているかを考えながら、おさらいしていきましょう。
5-1.仕事内容
3つの業種それぞれの仕事内容は、次のようになります。
業種 | 仕事内容 |
意匠設計 | 建築物の外観や内部のデザイン、設計をする。 |
構造設計 | 建築物の土台と骨組みの設計をする。 |
設備設計 | 建築物が建物として機能するために必要なインフラを設計する。 |
5-2.年収相場
3つの業種それぞれの年収相場は、次のようになります。
<年代> | 意匠設計 | 構造設計 | 設備設計 |
20代 | 300万円〜400万円 | 350万円〜450万円 | 400万円〜550万円 |
30代 | 400万円〜500万円 | 500万円〜560万円 | 650万円〜750万円 |
40代 | 5000万円〜800万円 | 600万円〜800万円 | 850万円〜900万円 |
※あくまでも相場であり、会社の規模や扱う案件、キャリアによって差異があります。
5-3.必要な資格
必要な資格は下記のようになります。「一級建築士」は、3つの業種で共通している資格です。
業種 | 必要な資格 |
意匠設計 |
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構造設計 |
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設備設計 |
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5-4.求められるスキル
各々に求められるスキルは下記のようになります。「高いコミュニケーション能力」は、3つの業種で共通しているスキルです。
意匠設計者に求められるスキル |
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構造設計者に求められるスキル |
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設備設計者に求められるスキル |
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5-5.働く職場
3つの業種の設計者、それぞれが働く主な職場は次のような所です。「組織設計事務所」は、3つの業種で共通している職場です。
意匠設計者の働く主な職場 |
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構造設計者の働く主な職場 |
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設備設計者の働く主な職場 |
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5-6.向いている人の特徴
業種それぞれに向いている人の特徴は、以下になります。
意匠設計者に向いているのは「クリエイティブな人」 |
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構造設計者に向いているのは「合理的な思考ができる人」 |
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設備設計者に向いているのは「技術への好奇心が旺盛な人」 |
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6.【建築設計】どの業種をめざすにしても必要なこと3つ
あなたは建築設計の3つの業種のうち、どれに興味を持ちましたか?
もしかして、
「〇〇設計に興味があるが、未経験でも勤められるのかな?」
「私は〇〇設計に向いている!でもスキル不足が心配」
「建築設計は年収も高くて魅力的だけど、思った以上にハードルが高そう…」
といった不安を持たれたのではないでしょうか。
この章では、建築設計の仕事に興味があるけれど、自信がなくて何から始めればいいかわからない…という人のために、「建築設計のどの業種をめざすにしても必要なこと」をお伝えしていきます。
- 建築の知識を身につける
- 二級建築士資格取得をめざす
- 就職(転職)活動を早めに開始する
よく読んで、自分の進むべき道をしっかり見据えていきましょう。
6-1.建築の知識を身につける
建築設計の仕事につくには、建築の知識が必要です。
未経験からの採用を謳う職場もありますが、現実として一定の建築知識が求められるところがほとんどだからです。
建築関係の学歴がある方は、建築士の資格取得を見据えて勉強されることをおすすめします。
建築関係の学歴がない人は、専門学校やスクールなどで知識を身につけましょう。夜間や週末などに受講できる、社会人向けのスクールもあります。
建築設計のどの業種をめざす場合も、まずは、建築に関する知識を身につける必要があります。
6-2.二級建築士資格取得をめざす
建築設計の仕事でキャリアを積むには、まず二級建築士資格取得をめざしましょう。
ここまで読まれた方はおわかりのように、どの業種にも共通して有効な資格が「建築士の資格」です。
建築士の資格には、下記の3つがあります。
- 一級建築士
- 二級建築士
- 木造建築士
一般的に建築設計をめざす多くの人が、最初に二級建築士の取得をめざします。
二級建築士は、大学や短大、専門学校を卒業すると受験資格が得られ、実務経験は問われないので挑戦しやすいからです。
また、企業の中には、二級建築士資格を採用必須要件にしているところもあり、この資格だけでも持っていれば就職や転職に有効となる利点もあります。
木造建築士に関しては、扱う範囲が小規模の木造建築に限られるため、広い範囲の設計をしたい人は二級建築士から一級建築士といった道筋を選ぶことが多いです。
二級建築士を取得すると、一級建築士の受験資格が得られます。
業界で引く手あまたのスペシャリスト、構造設計一級建築士、設備設計一級建築士の資格は、一級建築士の資格を持っていなければ狙えません。
好条件で建築設計の仕事に就くためには、まず、二級建築士の資格取得から始めていきましょう。
6-3.就職(転職)活動を早めに開始する
建築設計のどの業種をめざすにしても、就職(転職)活動はなるべく早く開始しましょう。
現在、建設設計の仕事は若手が不足していて、売り手市場になっているからです。
技術者の高齢化と、激務といわれる建設業界からの若者離れにより、建設設計では、若い人材ほど重宝されています。
また、激務な面に関しては、若手不足解消のため休日を取りやすくしたり、残業をできるだけ減らすなど、少しずつ改善方向にあります。
建築設計の就職(転職)活動は、若手の需要が高い今の時期から開始しましょう。
具体的には、建設業や建築設計を中心に扱っている転職サイトやエージェントなどへの登録をおすすめします。
- 就職(転職)活動をしながら、二級建築士資格の勉強をする
- 専門学校やスクールで学びながら、就職(転職)活動をする
といったことが可能になります。
参考:国土交通省|建設業の働き方として目指していくべき方向性
7.まとめ
建築設計の業種は、下記の3つに分かれています。
- 外観デザインや内装の設計を行う「意匠設計」
- 土台と骨組みの設計を行う「構造設計」
- 給排水、空調、電気設備の設計を行う「設備設計」
どの業種にも共通して有効な資格は建築士の資格です。
建築設計の仕事に就きたい方には、下記の3つをまずスタートすることをおすすめします。
- 建築の知識を身につける
- 二級建築士資格取得をめざす
- 就職活動を早めに開始する
建築設計の仕事は、現在若手が不足していて売り手市場になっています。
専門的な技術は求められますが、人々の暮らしを支える魅力的な仕事ですので、この機会に就職や転職の候補として考えてみてはいかがでしょうか。
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