「派遣でも休職はできる?」
「体調を崩して長期間の療養が必要になったので、『休職させてください』と頼んだら、派遣会社から『派遣は休職できない』と言われた、どうすればいい?」
派遣社員として働いていて、そんな疑問や悩みを持っている方もいるのではないでしょうか。
一般的には「派遣は休職できない」と言われますが、そんなことはありません。
派遣でも休職することが可能です。
派遣元=派遣会社に派遣社員の休職制度があれば、それを利用することができます。
ただ、休職制度には条件が設けられていますし、そもそも派遣の休職制度がない派遣会社もありますので、実際に休職できた派遣社員は少ないでしょう。
休職できない場合は、有給休暇を利用するケースが多いようです。
そこでこの記事では、派遣社員の休職について、知っておきたいことをまとめました。
- 派遣社員も休職できる
- ただし実際には休職できないケースが多い
- 派遣社員が休職を申請する流れ
- 派遣社員が休職するデメリットとは
- 派遣社員が休職した際に使える補償制度
- 派遣社員が休職する際の注意点と対処法
- 派遣社員の休職についてよくある質問
最後まで読めば、知りたいことがわかるはずです。
この記事で、あなたが必要な休みを十分に取れるよう願っています。
目次
1.派遣社員も休職できる
結論からいえば、派遣社員でも休職できる可能性はあります。
それはどういうことなのか、まず考えてみましょう。
1-1.派遣先ではなく派遣元の休職制度を利用できる可能性がある
派遣社員は、派遣先企業と直接雇用契約を結んでいるのではありません。
ですから、派遣先企業の休職制度は利用できませんが、派遣元=派遣会社に休職制度があれば、それを利用できる可能性があります。
まずは派遣会社に相談して、休職制度を利用できるようであれば、手続きしてもらいましょう。
ちなみに、休職に関する主な派遣会社の対応を以下にまとめました。
【休職に関する主な派遣会社の対応】
派遣会社 | 休職に関する対応 |
リクルートスタッフィング | 育児・介護休業、その他休暇・休職制度 |
スタッフサービス | 介護休業・休暇 |
テンプスタッフ | 産前産後休業・育児休業制度/介護休業制度 |
パソナ | 産前産後休暇、育児休業、介護休業、病気休職など |
【事例:テンプスタッフの休業要件】
種類 | 詳細 |
産前産後休業制度 | 産前6週 産後8週の期間、産前産後休業を取得可能 |
出生時育児休業制度 | 子どもの出生日または出産予定日のいずれか早い方から最大28日間、出生時育児休業を取得可能 |
育児休業制度 | 子どもが1歳に達する日まで、育児休業を取得可能 |
介護休業制度 | 要介護状態(2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族1人につき、最大3回まで分割して介護休業を取得可能 |
「休職したい」と思った際には、まず休職制度があるかどうか、派遣会社の担当者に確認しましょう。
1-2.休職に際しては事前に派遣元・派遣先に確認が必要
自分の派遣元である派遣会社に休職制度があったからといって、かならず取得できるとは限りません。
派遣会社ごとに、就業規則などで取得できる条件が定められていますので、まずはそれに合致しているかを確認しましょう。
合致している場合、派遣会社に申し出て、必要な手続きをします。
ただ、派遣会社への確認だけでなく、派遣先企業へも「休職したいが、その場合どうなるか」の確認が必要です。
というのも、派遣先はその派遣会社個人を雇用しているのではなく、特定の業務に対して派遣会社から労働力の提供を受けているわけで、休職されてしまうとその分の人手が不足してしまうからです。
「それでもいい、必要な期間休職したらまた復職してほしい」となる可能性もなきにしもあらずですが、多くの場合、派遣元の制度で休職すると、派遣先は退職することになるようです。
2.ただし実際には休職できないケースが多い
このように、派遣会社によっては派遣社員向けに休職制度を設けていて、利用できることもありますが、一般的には派遣社員は休職できないケースが多いようです。
どういうことでしょうか?
2-1.休職のためのハードルは高い
前章で挙げたように、休職制度を設けている派遣会社はありますが、それを利用するにはまず就業規則などに定められた条件に合致している必要があります。
また、そもそも休職制度がない派遣会社もあります。
休職制度を設けるか設けないか、どのような内容にするかは企業の自由で、設けなくても法的に問題はありません。
そのため、派遣会社自体に休職制度がない場合は、休職は難しいでしょう。
少し古いデータですが、求人情報メディア・人材紹介サービスの「エン・ジャパン株式会社」が2015年に派遣会社を対象に実施した「派遣社員の育休取得」の調査によると、「『”派遣社員の育児休業取得”が義務付けられた際に、対応できると思いますか?』と伺ったところ、もっとも多かった意見は『できる』(46%)で、『分からない』(33%)、『できない』(21%)が続きました」との結果だったそうです。
つまり、義務化されれば対応できるという派遣会社が半数弱、逆に対応できない企業は2割強です。
また、「派遣社員の育休取得義務化に『対応できない』と回答した方に、その理由を伺いました。第1位は『派遣先企業の理解が得られない』(85%)、第2位は『育休復帰後の勤務時間変化に対応できない』(60%)、第3位は『代替要員を確保できない』(46%)でした」とのことですので、大きなハードルはやはり、派遣先企業だということがわかります。
このような事情もあって、実際には派遣は休職できないケースが多いのでしょう。
もし派遣会社側に休職制度があっても、派遣先企業からの同意が得られず、「派遣元は休職、派遣先は退職」という扱いになる可能性が高いようです。
2-2.休職できない場合は有給を利用する
では、「派遣会社に休職制度がない」または「休職が認められない」けれども、「事情によってどうしても休職したい」という場合は、どうすればいいでしょうか?
そうなれば、有給休暇を利用するしかないでしょう。
派遣元の派遣会社には、労働基準法によって派遣労働者に法定通りの年次有給休暇を与える義務が課せられています。
また、もし派遣先企業が有給取得に難色を示した際にも、派遣社員が取得を諦める必要はありません。
派遣元がかわりのスタッフを派遣するなどの対応をして、有給を取得できるように努めることが求められます。
有給休暇がもらえる条件は、以下の2点です。
- 派遣先企業で働き始めた日から6か月間継続勤務していること
- 全労働日の8割以上出勤したこと
これを満たしていれば、以下の日数の有給休暇が取得できます。
出典:厚生労働省「派遣労働者の労働条件・安全衛生の確保のために」
有給を取得したい場合は、派遣先企業ではなく派遣元=派遣会社に申請します。
申請の手続きは派遣会社ごとに異なりますので、担当者に確認した上で必要な手続きをしましょう。
3.派遣社員が休職を申請する流れ
では、自分の属する派遣会社に休職制度がある場合、どのように申請すればいいのでしょうか?
手続きの流れは派遣会社によって異なりますが、おおむね以下のように進めればいいでしょう。
1)病気やケガの場合は診断書を取る
2)派遣会社に相談する
3)所定の手続きをする
3-1.病気やケガの場合は診断書を取る
休職の理由が病気やケガの場合は、まず最初に医師の診察を受け、診断書をもらいましょう。
というのも、派遣会社に休職の相談をする際に、派遣会社側はその理由を確認する必要があるためです。
診断書を出してもらう費用は病院によって異なりますが、おおむね2,000〜1万円程度と考えればいいでしょう。
3-2.派遣会社に相談する
診断書がもらえたら、派遣会社に休職の相談をします。
病気やケガ以外の理由で休職したい場合は、ここからスタートです。
担当者に連絡して、「このような理由で休職したい、派遣会社の休職制度を利用したい」と伝えます。
その際に、休業手当などの補償制度を利用したい場合はその旨も伝え、わからないことも質問しておきましょう。
補償制度については、「3.派遣社員が休職した際に使える補償制度」で説明しますので、そちらを読んでください。
3-3.所定の手続きをする
休職できるとなったら、派遣会社で決められている所定の手続きをします。
必要な届けの書式などがあれば、記載して提出しましょう。
また、休業手当や傷病手当など、利用できる補償があれば、その手続きもしてください。
手続きが終われば、休職に入ります。
4.派遣社員が休職するデメリットとは
ここまで、派遣社員でも休職できる可能性はあることを説明してきました。
が、実際に休職できるとなった場合でも、デメリットはあります。
たとえば以下のような点です。
- 同じ派遣先企業には戻れない可能性が高い
- 休職中の収入が減る
それぞれ説明します。
4-1.同じ派遣先企業には戻れない可能性が高い
派遣会社に休職制度があれば、派遣労働者が休職するのは当然の権利ですが、派遣先企業としては前述したように、必要な労働力が提供されなくなるのでできれば避けてほしいところでしょう。
そのため、休職が認められても、「その間待っていることはできない、別のスタッフを派遣してほしい」と言われる可能性が高いと言えます。
つまり、その場合は今の派遣先は退職して、休職あけに復職する際にはまた別の派遣先に行くことになるのです。
もし、今の職場が気に入っていて長く働きたいと考えているのであれば、休職はデメリットと言えるでしょう。
4-2.休職中の収入が減る
また、休職によって収入が減るのも大きなデメリットです。
派遣社員が休職した場合、休業補償などの補償が受けられる可能性があります。
が、それももちろん給与の満額ではなく、休業補償であれば60〜80%と決められています。
休職期間が長くなれば、生活に支障が出る恐れもありますので、その間の収入をどうするかについても考えておく必要があるでしょう。
参考:厚生労働省「休業(補償)等給付について」
5.派遣社員が休職した際に使える補償制度
前項でも触れたように、派遣社員の休職には収入面での不安も大きいでしょう。
そこで、そんなときに利用できる補償制度が用意されていますので、紹介しておきましょう。
主な制度は以下です。
- 休業補償
- 傷病手当金
それぞれ説明します。
5-1.休業補償
「休業補償」は、業務上や通勤中の病気やケガによって労働者が働けなくなって休業した際に、その賃金の60%が補償される制度で、労働基準法で企業側に義務付けられています。
派遣の場合、たとえば派遣先での事故でケガをしたり、仕事や職場の人間関係が原因でうつ病になったりした際に、派遣元=派遣会社から補償が受けられます。
反対に、仕事と関係なく病気やケガをした場合は、休業補償は受けられません。
その場合は、かわりに「傷病手当金」が受けられる可能性がありますので、次項「5-2.傷病手当金」を参照してください。
休業補償が受けられる条件は、以下の3点です。
- 労働災害や通勤災害に遭った社員が療養していること(医師の診断書が必要)
- 上記の療養のために就業できないこと
- 休業しているため、会社から賃金を支給されていないこと
これらを満たしている場合、派遣元は派遣労働者が「賃金をもらえなくなった4日目から休業が終わるまで」の間、「平均賃金の60%以上」の休業補償を支払わなければなりません。
休業補償を受けたい場合は、派遣会社の担当者にその旨を伝えて、必要な手続きをしてください。
参考:厚生労働省「休業(補償)等給付について」
5-2.傷病手当金
「傷病手当金」とは、病気やケガで仕事を休業する際にもらえる手当です。
休業補償と異なるのは、業務「外」での病気やケガに対する補償である点で、たとえばインフルエンザや新型コロナ感染症などで休む場合や、プライベートでケガをして入院した場合にも利用できます。
傷病手当金をもらえる条件は以下の4点で、すべてに該当している必要があります。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
ポイントは③で、休み始めてから最初の3日間は手当の対象にはならず、連続して休んだ4日目から傷病手当が支給されます。
支給額は、「1日につき、直近12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額」で、休業日数に応じて支給されます。
もし勤続期間が12ヶ月未満の場合は、以下のいずれか低いほうの額で算出します。
- 派遣元の健康保険に加入している期間における標準報酬月額の平均額
- 派遣元の健康保険加入者の標準報酬月額の平均額
また、傷病手当金をもらえる期間は、ひとつの病気・ケガに対して支給を始めた日から数えて最長1年6ヶ月です。
傷病手当をもらうには、まず派遣会社の担当者に連絡し、決められた手続きをしてください。
申請書類には、医師の記入が必要なものがありますので、自分でもらいに行く必要もあるでしょう。
参考:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
6.派遣社員が休職する際の注意点と対処法
このように、派遣社員が休職した際には、ある程度は収入の補償も受けられることがわかりました。
が、実際に休職するにあたっては、いくつか注意が必要なことがあります。
それは以下です。
- 急に申し出ると、休職できる可能性が低くなる恐れがある
- 社会保険に加入していないと、傷病手当金が受けられない
それぞれ、対処法とともに説明します。
6-1.急に申し出ると、休職できる可能性が低くなる恐れがある
第一に、休職の申し出が直前になってしまうと、休職を受け入れてもらえない可能性が高まりますので注意してください。
というのも、前述のように派遣先企業としては、人手が足りなくて派遣を受け入れているため、急に長期で休職されてしまうと業務に支障が生じます。
となると、派遣元は急いでかわりの派遣スタッフを用意しなければなりませんが、すぐにいい人材が見つかるとは限りません。
そのせいで、「いま休職されると困る」と、休職を断られてしまい、結局やめなければならない、という恐れもあります。
もし次のスタッフが見つかったとしても、派遣先にも派遣元にも迷惑をかけることになりますし、復職の際に派遣会社の印象もよくないでしょう。
病気やケガなど突発的なで休職する場合は、急な休職申請になってしまうのはしかたないでしょうが、産休や育休、介護休暇などの場合は、できるだけ早めに相談するようにしてください。
6-2.社会保険に加入していないと、傷病手当金が受けられない
「5.派遣社員が休職した際に使える補償制度」で休業補償と傷病手当金について説明しました。
休業補償は派遣会社が支払うもので、もしそれが難しくても、派遣会社の労災保険を使って支払うことができるため、派遣社員には影響がありません。
が、傷病手当金は健康保険から支払われるため、社会保険に加入していないと受け取ることができないのです。
健康保険・厚生年金保険・介護保険に加入できるのは、以下のいずれかの場合です。
- 雇用期間が2カ月を超える見込みで、1週間の所定労働時間が正社員のの4分の3以上
- 以下の条件をすべて満たしている
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・雇用期間が1年を超える見込み
・賃金が8万8,000円以上
・昼間学生ではない
「派遣でも産休・育休を取って、補償も受けたい」といった希望がある場合は、休職制度のある派遣会社を選んだ上で、上記の条件を満たして社会保険に加入できる働き方をする必要があるでしょう。
7.派遣社員の休職についてよくある質問
さて、ここまでで派遣社員の休職について、知っておきたいことをひと通り説明しました。
が、これ以外によく質問があるのが、「派遣社員がメンタル不調の場合、休職できる?」ということです。
最後にその疑問に答えておきましょう。
Q. 派遣で就業中に、メンタルの不調が生じた場合は休職できる? 復職してまた働ける?
派遣で働いている人が休職を考える理由のひとつに、精神的な不調が挙げられます。
うつ病や適応障害などと診断された場合、休職できるのでしょうか?
答えは「休職できる場合もある」です。
「1-1.派遣先ではなく派遣元の休職制度を利用できる可能性がある」で説明したように、派遣会社に休職制度があれば、それを利用できる可能性があります。
もし制度がなくても、派遣元に診断書を提出しいて相談すれば、何か対応を考えてもらえるかもしれません。
休職制度がなく特に対応してもらえない場合は、有給休暇を使うしかありませんが、日数が限られているため、メンタルの不調から回復するには時間が足りないケースも多いでしょう。
その場合は、残念ですが今の派遣先は退職してじっくり療養し、回復後に復職を目指すことになります。
ただ、休職できた場合でも、回復後に同じ派遣先に復職できる可能性は低いでしょう。
というのも、何度か触れたように派遣先はその業務にあたる人手を必要としているからです。
あなたが休職している間、その業務が滞ってしまわないよう、別の派遣スタッフを受け入れるケースが多く、復職後はまた別の派遣先に就業することになるでしょう。
6.まとめ
いかがでしたか?
派遣社員の休職について、知りたいことがわかったかと思います。
ではあらためて、記事の要点をまとめましょう。
◎派遣社員も休職できる
◎ただし実際には休職できないケースが多い
◎派遣社員が休職を申請する流れは、
1)病気やケガの場合は診断書を取る
2)派遣会社に相談する
3)所定の手続きをする
◎派遣社員が休職するデメリットとは、
- 同じ派遣先企業には戻れない可能性が高い
- 休職中の収入が減る
◎派遣社員が休職した際に使える補償制度は、
- 休業補償
- 傷病手当金
◎派遣社員が休職する際の注意点と対処法は、
- 急に申し出ると、休職できる可能性が低くなる恐れがある
- 社会保険に加入していないと、傷病手当金が受けられない
これらを踏まえて、あなたが必要な休みを十分取れるよう願っています。
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