「派遣では、通勤にかかる交通費は出ないの?」
「通勤方法によって派遣の交通費が出ない場合があるって本当?」
このように、派遣で仕事をするときの交通費について不安に思っている方は多いでしょう。
派遣でも、通勤にかかる交通費は支給されます。2020年4月の労働者派遣法改正で盛り込まれた同一労働同一賃金によって、正社員に交通費が支給されている企業なら、派遣にも交通費を支給すべきことが明確になったからです。そのため、派遣社員も正社員と同等の交通費がもらえます。
ただし、通勤にかかる交通費の支給は、利用する交通機関によって支給対象になる場合とならない場合があります。また、支給額がいくらになるかについても、計算方法が2種類あるので、注意が必要です。
交通費に関して、「思っていたほど支給されなかった」といったトラブルに遭わないようにするには、基礎知識を身に付けておくことが大切なのです。
この記事では、派遣の交通費について、支給される理由・ケース別の支給対象となる場合とならない場合・支給額などの基礎知識について、わかりやすく解説しています。
【この記事の内容】
- 派遣で交通費は支給される
- 【ケース別】派遣で交通費が支給対象となる場合・ならない場合
- 派遣の交通費の支給額はどれくらい?
- 損しないために!派遣の交通費に関する注意点2つ
後半では、交通費の支給に関係して思わぬ損失が出ないようにするために、知っておくべき注意点もご紹介しますので、「想定外の不利益は避けたい」という方はぜひご確認ください。
今回ご紹介する内容をすべて確認しておくことで、派遣の交通費が一般的にどういう取扱いになっているのか把握し、交通費について納得した上で、派遣の仕事をするかどうか検討できるようになります。
無駄な出費を抑えて気持ちよく派遣の仕事に専念するためにも、交通費に関する基本を身に付けておきましょう。
目次
1. 派遣社員も交通費は原則支給される!
通勤時の交通費(通勤手当)は、派遣であっても支給されます。
以前は、派遣では「通勤時の交通費が出ない」と言われていた時期もありますが、近年、法律の改正に伴って状況が改善しました。
ここでは、通勤時の交通費が支給されるようになった理由と、交通費に関する仕組みについて、簡単に見ておきましょう。
1-1. 同一労働同一賃金で派遣にも通勤交通費(通勤手当)が支給されるようになった
以前は支給されないケースもあった派遣の通勤交通費(通勤手当)が、支給されるようになった背景には、同一労働同一賃金の施策があります。
同一労働同一賃金とは、2020年4月の労働者派遣法改正で盛り込まれた施策のことです。ざっくりと言うと、「同じような業務を担当する正社員と派遣社員の待遇に、理由のない格差があってはいけませんよ」とする、不合理な不平等を是正する施策になっています。
これに伴い、正社員に通勤時の交通費が支給されている企業であれば、派遣社員にも平等に交通費を支給しないといけなくなりました。
なお、余談ですが、交通費は各企業の就業規則に支払うと明記されてはじめて払われるものです。つまり、各企業が独自に就業規則などに定めない限り、支払いの法的な義務はありません。
そのため、具体的にどの範囲で交通費が支給されるのかについては、企業によって異なります。気になるときは、就業規則などをチェックするか、担当者に確認してみましょう。
【ポイント】
- 2020年4月1日から始まった同一労働同一賃金の施策によって、派遣にも通勤交通費が支給されるようになった
- ただし、どの程度支給されるのかについては、企業によって異なる
1-2. 派遣の交通費支給額の決め方は2パターンある
先ほど、同一労働同一賃金によって、派遣社員も正社員と平等に通勤交通費の支給が受けられるようになったとお伝えしましたが、この「同一」には2つのパターンがあります。
派遣の交通費支給額の決め方2パターン | |
派遣先均等・均衡方式 |
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労使協定方式 |
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上記のとおり、派遣元企業が採用しているのが「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」かによって、もらえる交通費の基準が変わってきます。
厚生労働省の実施した調査においては、87.8%の企業が労使協定方式を選択していることからわかるように、大半の企業では「労使協定方式」を採用していますが、気になる場合は事前に担当者に確認しておきましょう。
【ポイント】
- 交通費は、派遣先の正社員と同じ水準でもらえる場合と、同一の派遣元に所属する従業員間で、同じ水準でもらえる場合の2パターンある
- 同じ派遣元に所属する従業員間で、同じ水準でもらえる場合が多い
2. 【ケース別】派遣社員の交通費が支給対象となる場合・ならない場合
派遣の交通費は、正社員と同等の額が支給されます。
ただし、一般的に、移動手段やかかった費用の種類によって、交通費の支給対象になる場合とならない場合があります。
ここでは、よくある移動手段の「電車・バス」「自転車」「自家用車」の3つのシーンについて、支給対象になるのかどうかや、例外・注意点などを解説します。
【ケース別】派遣社員の交通費が支給対象となる場合・ならない場合 | |
電車・バス |
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自転車 |
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自家用車 |
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「交通費が出ると思っていたら、例外だった!」と、後から想定外の出費がかさむことにならないように、必ず確認しておいてください。
2-1. 【派遣社員の交通費が支給対象となる場合・ならない場合のケース1】電車・バス通勤の運賃
通勤時に電車やバスを利用するケースでは、その運賃は交通費の支給対象になる場合がほとんどです。
ただし、6ヶ月分の定期代のように、もっとも割安な料金の範囲での支給とされることが大半である点に、注意する必要があります。
どのような経路・費用でも支給が認められるのではなく、経済的で合理的なものでないと認められないことを覚えておきましょう。そのため、電車におけるグリーン車などの追加料金も支給の範囲外となります。
さらに、自宅から会社までの距離が2km未満のときは原則徒歩となり、交通機関を利用しても交通費が支給されないことがほとんどですので、注意が必要です。
【電車・バス通勤の注意すべきポイント】
- 6ヶ月分の定期代のように、もっとも割安な料金の範囲での支給
- 最短距離かつ最安値の交通手段を選ぶ必要がある
- 2km未満は徒歩に限る場合がほとんど
2-2. 【派遣社員の交通費が支給対象となる場合・ならない場合のケース2】自転車通勤の費用
自転車で通勤する際にかかる費用については、交通費の支給対象としない企業が多い傾向にあります。
その主な理由は、他の手段と比較して自転車通勤には、
- 経路や距離が不明確で、運賃のような明確な出費が発生しない
- 事故のリスクが高いため、積極的に推奨したくはない
といった特徴があるからです。
ただし、最近では、保険への加入などを条件として、費用を支給するケースもあります。自転車通勤を検討しているなら、事前に担当者に確認しておくと安心です。
2-3. 【派遣社員の交通費が支給対象となる場合・ならない場合のケース3】自家用車で通勤したときの費用
自家用車で通勤するケースでは、ガソリン代は交通費の支給対象になり、駐車場代は支給対象にならないという取扱いをしている企業が、多い傾向にあります。
また、高速道路や有料道路の利用料は対象にならないため、注意が必要です。繰り返しになりますが、交通費は経済的で合理的な範囲でないと認められない、という原則を覚えておきましょう。
なお、自家用車による通勤そのものを認めるかどうかについても、派遣会社によって異なります。自家用車による通勤を希望する場合は、事前に派遣会社の担当者に確認し、認めている派遣会社を選ぶようにしましょう。
【注意すべきポイント】
- 高速道路や有料道路の利用料は対象にならない
- 自家用車による通勤そのものを認めるかどうかについても、派遣会社によって異なる
3. 派遣の交通費の支給額はどれくらい?
派遣に支給される交通費の算定方法には、実費支給と定額支給の2種類があります。
派遣で支給される交通費の算定方法2種類 | |
実費支給 |
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定額支給 |
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どちらの算定方法を採用するかは、派遣会社の労使協定で決められています。労使協定の内容は、派遣会社の担当者に確認することで、把握が可能です。
【労使協定とは】
- 労働者と使用者(雇用者)の間で締結する、労働条件のうち特に重要な項目についての取り決め
- 労使協定を締結したときは、使用者が労使協定の内容を労働者全員に周知させる義務を負う
支給される交通費がどれくらいの金額になりそうか、見込みを付けるために、算定方法の基本を知っておくことは有用です。以下で、もう少し詳しく説明しますので、一読しておきましょう。
3-1. 交通費の実費支給とは
交通費の実費支給とは、通勤距離や通勤方法に応じた実費を支給する算定方法です。原則として、自宅から職場までの交通費の1日あたりの実費額に、出勤日数を乗じた額を受け取れます。
どういうことなのか、具体例を見てみましょう。
- 片道の電車代が390円
- 1ヶ月の出勤日数が20日
支給される交通費の概算:390円×2×20=15,600円
ただし、派遣会社によっては、交通費の支給上限が設けられているケースもあります。その場合、実費で計算して上限を超えたら、上限額までしか支給されません。
上限額の有無や金額は派遣会社によって異なるので、担当者に確認しておきましょう。
3-2. 交通費の定額支給とは
定額支給とは、通勤距離や通勤方法にかかわらず、定額の交通費を支給する算定方法です。
定額については、一般的な正社員の通勤手当の金額以上の額を支給するよう、厚生労働省の通知で定めがあります。同通知によると、2023年度の額は71円なので、所定内労働時間1時間あたり「71円」以上の金額を通勤手当として支給することが必要です。
以下の例について、ざっくりと計算してみましょう。
- 所定内労働時間1時間あたり75円
- 1日の所定労働時間8時間
- 1ヶ月の出勤日数が20日
支給される交通費の概算:75円×8×20=12,000円
4. 損しないために!派遣社員の交通費に関する注意点2つ
通勤にかかる交通費の支給によって、税金や社会保険料額が増える可能性があります。特に、扶養内で仕事をしたい人は、注意が必要です。
損しないために!派遣の交通費に関する注意点2つ | |
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どういうことなのか、順番に説明していきます。
4-1. 【派遣社員の交通費に関する注意点1】社会保険料の算定に含まれる
通勤交通費は、税金については非課税限度額の設定がありますが、社会保険料の算定基礎には、全額含まれます。
健康保険料や年金などの支払額に影響する可能性があることに加え、被保険者の被扶養者に該当するかどうかの判定基準にも影響するので、注意が必要です。
社会保険の扶養から外れるボーダーは年間の収入が130万円なので、扶養内で働くことを希望する場合は、交通費もあわせて130万円未満に収まるか確認しておきましょう。
4-2. 【派遣社員の交通費に関する注意点2】課税対象の範囲が支給内容によって異なる
通勤交通費は一定額まで非課税になりますが、非課税限度額が、通勤手段によって異なることに注意しましょう。交通手段に応じた1ヶ月あたりの非課税限度額は、以下のとおりです。
通勤交通費が非課税になる限度額(1ヶ月あたり) | ||
電車・バス | 150,000円 | |
自転車・自家用車 | 片道通勤距離2km未満 | 全額課税対象 |
片道通勤距離2km以上10km未満 | 4,200円 | |
片道通勤距離10km以上15km未満 | 7,100円 | |
片道通勤距離15km以上25km未満 | 12,900円 | |
片道通勤距離25km以上35km未満 | 18,700円 | |
片道通勤距離35km以上45km未満 | 24,400円 | |
片道通勤距離45km以上55km未満 | 28,000円 | |
片道通勤距離55km以上 | 31,600円 |
※参照:国税庁「No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当|国税庁」「No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁」
以上のとおり、自転車・自家用車で通勤する場合の非課税限度額は、片道通勤距離によって変動し、複雑です。特に、これまで電車・バスで通勤していて自家用車などに切り替える場合は、うっかり非課税限度を超えてしまいがちなので、注意しましょう。
5. まとめ
通勤時の交通費(通勤手当)は、派遣であっても支給されます。以前は支給されないケースもあった派遣の通勤交通費(通勤手当)が、支給されるようになった背景には、同一労働同一賃金の施策があります。
以下のとおり、派遣元企業が採用しているのが「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」かによって、もらえる交通費の基準が変わってきます。
派遣の交通費支給額の決め方2パターン | |
派遣先均等・均衡方式 |
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労使協定方式 |
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派遣の交通費は、一般的に、移動手段やかかった費用の種類によって、交通費の支給対象になる場合とならない場合があります。
【ケース別】派遣社員の交通費が支給対象となる場合・ならない場合 | |
電車・バス |
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自転車 |
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自家用車 |
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また、派遣に支給される交通費の算定方法には、実費支給と定額支給の2種類があります。
派遣で支給される交通費の算定方法2種類 | |
実費支給 |
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定額支給 |
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通勤交通費の支給を受けるにあたっては、以下の点に注意しましょう。
損しないために!派遣の交通費に関する注意点2つ | |
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通勤時の交通費の支給を受けられることで、手出しを減らせますが、注意すべき点もあります。今回ご紹介した内容を活かして、交通費の支給に関係して、思わぬ損失が出ないようにしましょう。
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