「派遣には禁止業務があると聞いたけれど、どんな仕事が該当する?」
「警備の仕事を派遣でしたいと思っていたら、『それは派遣禁止業務だ』と言われた、それはなぜ?」
派遣で働きたいと思っていて、そんな疑問を持った人はいませんか?
たしかに、派遣社員に担わせることが法律で禁じられている業務=「適用除外業務」があります。
それは以下の5業務です。
【派遣の適用除外業務】 ① 港湾運送業務 |
これに該当する仕事に派遣社員を従事させてしまうと、派遣会社や派遣先企業には以下の罰則が課せられる恐れがあります。
- 派遣会社に対する罰則:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 派遣先企業に対する罰則:違反の是正勧告、従わなければ社名公表
そこでこの記事では、派遣の禁止業務についてくわしく説明します。
◎派遣の禁止業務とは
◎派遣禁止業務5種:具体例と例外
◎派遣禁止業務を行った場合の罰則
◎派遣禁止業務をさせると「労働契約申込みみなし制度」が適用される
◎その他 派遣で禁止されていること
最後まで読めば、派遣の禁止業務についてよく理解できるはずです。
この記事で、あなたが法的に禁止されている業務に関わることなく、正しい派遣業務に携われるよう願っています。
目次
1.派遣の禁止業務とは
派遣社員には、携わることができない「禁止業務」があります。
まずはこの決まりについて説明しましょう。
1-1.派遣には禁止業務=「適用除外業務」がある
企業が派遣社員を受け入れる際には、どんな業務を担当してもらうのかをあらかじめ定めた上で契約します。
が、そもそも派遣社員に担わせることが法律で禁じられている業務があります。
これに該当する仕事に派遣社員を従事させてしまうと、派遣会社や派遣先企業は罰せられる恐れもあり、注意しなければなりません。
これらの禁止業務は、正式には「適用除外業務」と呼ばれ、以下の5種が該当します。
【派遣の適用除外業務】 ① 港湾運送業務 |
1-2.派遣に禁止業務がある理由
このような禁止業務は、なぜ定められているのでしょうか?
その理由は業務ごとにまちまちですが、共通して挙げられるのは以下のようなことです。
①業務内容の専門性が高いため
②業務内容が危険であるため
③その業務の派遣に関して別の法律があり、そちらに従うため
実は、以前は人材派遣は、「正社員が派遣に転換されて労働者の待遇が悪くなるリスク」を鑑みて、全面的に禁止されていました。
それが1986年、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(通称「労働者派遣法」)の施行により、13の専門業種に限って派遣が解禁されました。
その後、派遣の需要が高まるにつれて対象となる業種が増え、1999年には派遣は原則的にどのような業種でも可能になり、反対に上記の①〜③のような理由がある一部の業務のみが、派遣禁止業務として残されたというわけです。
2.派遣禁止業務5種:具体例と例外
では、あらためて派遣が禁止されている業務について、説明していきましょう。以下に、禁止業務とその具体例を一覧でまとめましたので、見てください。
【派遣禁止業務】
禁止業務 | 具体例 |
港湾運送業務 | 1)湾岸から船舶に貨物を積み込んだり、船舶から湾岸に貨物を降ろす業務 |
建設業務 | 1)ビル・家屋などの建築現場で、資材の運搬・組み立てなどを行う業務 |
警備業務 | 1)会場や店舗の入口で、手荷物検査をする業務 |
病院などでの医療関連業務 |
|
士業 |
|
それぞれ説明していきましょう。
2-1.港湾運送業務
派遣が禁止されている業務のひとつめは、「港湾運送業務」です。
2-1-1.派遣が禁止されている「港湾運送業務」とは
労働者派遣法で派遣が禁止されている「港湾運送業務」とは、港湾で行う以下のような業務です。
【派遣が禁止されている港湾運送業務の例】 1)湾岸から船舶に貨物を積み込んだり、船舶から湾岸に貨物を降ろす業務 参照:一般社団法人 日本人材派遣協会ホームページ「港湾運送業務」より編集 |
2-1-2.港湾運送業務が派遣禁止である理由
ではなぜ、上記のような業務に派遣が禁じられているのでしょうか?
港湾運送業務は、仕事量に波があって日ごとに変動するという特殊な仕事で、それにあわせて適切に人材を確保、配置するのが困難です。
また、港湾運送にたずさわる事業者には中小企業が多いため、労働者の雇用状況にも改善が必要と考えられます。
そこで、通常の労働者派遣とは別に、その特殊性にあわせた「港湾労働者派遣制度」が設けられました。
この制度は、労働者派遣法よりも先に作られたもので、港湾運送業務にたずさわる労働者には、そちらの派遣制度が適用されています。
そのため、通常の労働者派遣の制度を利用する必要はなく、労働者派遣法にもとづく派遣が禁止されているというわけです。
2-1-3.例外として派遣が禁止されない港湾運送業務
ただし、港湾運送業務の中でも、以下の業務は派遣禁止業務から除外されていますので、通常の派遣社員でもたずさわることができます。
- 港湾運送に関わる事務
→貨物の箇数の計算、受渡の証明、船積貨物の積付に関する証明、調査・鑑定、貨物の容積や重量の計算・証明など - 貨物の積み下ろし場所以外の、船員の居住区域、機関区域、燃料タンク、飲料水タンクなどの清掃
- 倉庫内に付属冷蔵室がある場合、そこに荷物の出し入れをする業務
- トラックなどの運送車両や鉄道の運転 など
2-2.建設業務
土木、建築、解体などの建設業務も、派遣が禁じられています。
2-2-1.派遣が禁止されている「建設業務」とは
労働者派遣法で派遣が禁じられている「建設業務」とは、土木、建築など工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体の作業や、その準備作業にあたる業務です。
具体的には、以下のようなものが含まれます。
【派遣が禁止されている建設業務の例】 1)ビル・家屋などの建築現場で、資材の運搬・組み立てなどを行う業務 参照:一般社団法人 日本人材派遣協会ホームページ「建設業務」より編集 |
2-2-2.建設業務が派遣禁止である理由
建設業は、元請けが受注した仕事を下請けに出し、下請けはさらに孫請けに出す「重層下請け構造」が常態化しています。
そのため、業務に関して責任の所在が不明確だったり、事故や問題が起きた場合にどこが補償するのかが問題になる恐れがあります。
そこで、建設業には派遣を禁止し、かわりに「建設業務労働者就業機会確保事業」によって、一定の条件のもとに建設業者同士の間に限って労働者を派遣しあえる制度を設けました。
ですから、前項の禁止業務に対して派遣労働者を受け入れたい建設業者は、派遣会社からではなく、他の建設業者からであれば派遣してもらうことが可能なのです。
2-2-3.例外として派遣が禁止されない建設業務
ただし、建設業務の中でも以下については、派遣禁止業務にあたりません。
- 施行計画の作成や、工程管理・品質管理
- 工事現場外から現場内への資材の搬入業務
- イベントなどで、簡易テントの設営(大型テントは禁止)、パーティションの設置、椅子の搬入、舞台装置・大道具・小道具の設置などの業務
2-3.警備業務
3つめの派遣禁止業務は、「警備業務」です。
2-3-1,派遣が禁止されている「警備業務」とは
労働者派遣法で派遣が禁止されている「警備業務」とは、事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地などで、盗難などの事故が発生しないよう警戒、防止する業務です。具体的には以下のようなものが含まれます。
【派遣が禁止されている警備業務の例】 1)会場や店舗の入口で、手荷物検査をする業務 参照:一般社団法人 日本人材派遣協会ホームページ「警備業務」より編集 |
また、以下の業務は一般的には警備とは考えられませんが、繰り返し行われる場合は「警備業務」とみなされて、派遣禁止扱いになる場合もあります。
- 店舗などに販売業務で派遣されているスタッフが、混雑時にレジ前の客に整列をお願いすること
- 受付業務で派遣されているスタッフが、受付周辺を徘徊する不審な人に声をかけること
つまり、上記のようなことを派遣社員に何度もやらせると、労働者派遣法に違反になる恐れがあるので注意してください。
2-3-2.警備業務が派遣禁止である理由
警備業務は、警備業法によって「請負」で行うことが定められています。
というのも、警備業務は安全を守るという責任があるため、業務を担当する者は本人の責任のもとに業務を適正に遂行することが求められるためです。
そのため警備員は、警備会社が直接雇用し指導監督しなければならず、派遣での就業は認められていないのです。
2-4.病院などでの医療関連業務
4つめは、「医療関連業務」です。
2-4-1.派遣が禁止されている「医療関連業務」とは
派遣が禁止されている「医療関連業務」とは、医師、歯科医師、薬剤師の調剤、保健婦、助産婦、看護師・准看護師、栄養士などが行う業務です。
具体的には、以下のようなものが該当します。
【派遣が禁止されている医療関連業務の例】
|
ただし、場所によっては派遣が認められます。
派遣が禁止されている場所、認められる場所はたとえば以下です。
【医療関係業務の派遣禁止の場所・禁止ではない場所】
医療関連業務が | 医療関連業務が派遣禁止にならない場所 | |
|
など | <診療所の中でも以下の場所にあるもの> |
たとえば、病院に看護師を派遣契約で働かせることは禁じられていますが、養護老人ホームや保育所などが看護師を派遣で受け入れることは可能だというわけです。
2-4-2.医療関連業務が派遣禁止である理由
医療に関係する業務は、資格を持った専門職の人しかたずさわれません。
また、医師と看護師、薬剤師など、さまざまな業種が協力して医療行為を行い、人の健康と命を守っています。
そのため、短期間の契約で入れ替わる可能性がある派遣社員では、十分な連携をとって業務にあたることは難しいという判断から、医療関連業務を派遣禁止にしているのです。
2-4-3.例外として派遣が禁止されない医療関連業務
ただし、以下のケースでは、医療関連業務でも派遣が禁止されません。
①直接雇用を前提として紹介予定派遣をする場合
②産前産後休業、育児休業、介護休業を取得した労働者の代替としての業務である場合
③以下のいずれかの場所で医師の業務をする場合
- へき地(離島振興対策実施地域に指定された離島、振興山村に指定された地域、過疎地域など)
- 都道府県が派遣労働者が必要だと認めた病院、診療所で、厚生労働省が定めたもの
- 上記の病院、診療所にかかる患者の居宅
これらのケースでは、医師や看護師などが派遣契約で働くことが認められています。
2-5.弁護士、社労士などの士業
いわゆる「士業」と呼ばれる業務も、派遣禁止とされています。
2-5-1.派遣が禁止されている「士業」とは
ここまでの4つの業務は、労働者派遣法によって派遣が禁止されているものです。
が、それ以外にも、いわゆる「士業」と呼ばれる職業の業務は、各業に関する法律によって派遣が禁止されています。
具体的には、以下の通りです。
業種 | 派遣禁止の根拠法令 |
弁護士 | 弁護士法 |
外国法事務弁護士 | 外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法 |
司法書士 | 司法書士法 |
土地家屋調査士 | 土地家屋調査士法 |
公認会計士 | 公認会計士法 |
税理士 | 税理士法 |
弁理士 | 弁理士法 |
社会保険労務士 | 社会保険労務士法 |
行政書士 | 行政書士法 |
管理建築士 | 建築士法 |
2-5-2.士業が派遣禁止である理由
士業とは、資格を持っている者が委託を受けて、個人の権限によって業務をとり行う仕事です。
つまり、自分が受けた仕事については、第三者から指揮命令を受けることはありません。
一方、派遣社員は、派遣先企業の指揮命令に従って業務を行う必要があります。
そのため、自分で仕事を取り仕切る士業とは相反するため、派遣禁止とされています。
ただ、建築士事務所の管理建築士だけは理由が異なり、建築士法により「専任」でなければならないと決められているため派遣ができません。
2-5-3.例外として派遣が禁止されない士業
前述の士業は派遣禁止ではありますが、中には例外として派遣が可能な場合もあります。
それは以下のケースです。
業種 | 派遣が可能なケース |
公認会計士 | 以下の両方を満たす場合
|
税理士 | 以下の両方を満たす場合
※この場合、派遣される税理士は、派遣先の補助税理士として登録しなければならない |
弁理士 | 以下の両方を満たす場合
|
社会保険労務士 | 以下の両方を満たす場合
|
行政書士 | 以下の両方を満たす場合
|
2-6.その他、派遣が禁止されている業務
以上の5業種が、一般的に派遣の禁止業務とされているものです。
が、それに加えて、以下の業務も派遣が禁止されています。
人事労務管理に関する業務のうち、派遣先での団体交渉、または労働基準法に規定する協定の締結などのための労使協議の際に、使用者側の直接当事者として行う業務 |
派遣先の労使交渉に、直接雇用ではない派遣社員が関わることは考えにくいですが、これは法的にも禁じられている業務だということです。
派遣元は、この業務のためにスタッフを派遣してはいけませんし、派遣先も派遣社員をこれらの業務につかせてはいけません。
3.派遣禁止業務を行った場合の罰則
派遣禁止業務のくわしい内容がわかりました。
これらの業務は法律で派遣に担当させることが禁じられていて、違反すれば罰則があります。
では、どんな罰を受けるのでしょうか?
それは以下です。
- 派遣会社に対する罰則:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 派遣先企業に対する罰則:違反の是正勧告、従わなければ社名公表
3-1.派遣会社に対する罰則:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
派遣会社が、派遣を禁じられている「適用除外業務」にスタッフを派遣した場合は、労働者派遣法により「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が課せられる可能性があります。
また、労働者派遣事業の許可取り消し、事業停止命令、改善命令の対象にもなります。
特に、上記の「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という処分を受けた場合には、許可取り消し、業務廃止命令を受ける恐れがあるのです。
さらに、派遣元が知らないうちに、派遣先企業が派遣社員に禁止業務をさせていた場合でも、派遣会社は労働者派遣の停止命令を受ける恐れがあります。
そのようなことがないよう、派遣会社はスタッフが派遣先で禁止業務をさせられていないか、注意しておく必要があるでしょう。
3-2.派遣先企業に対する罰則:違反の是正勧告、従わなければ社名公表
また、派遣先企業が派遣社員に禁止業務をさせた場合にも、罰則はあります。
前項の懲役や罰金といった刑罰ではありませんが、違反を是正するよう勧告を受け、それに従わない場合は社名を公表される可能性があるのです。
さらに、派遣先が派遣社員に対して禁止業務を行わせた際には、その時点で直接雇用を申し込んだとみなす「労働契約申込みみなし制度」というものが適用される可能性も生じます。
これについては次章でくわしく説明しますので、このまま読み進めてください。
4.派遣禁止業務をさせると「労働契約申込みみなし制度」が適用される
さて、前述したように、派遣先企業が派遣社員に対して派遣禁止業務をさせるなど、違法な派遣を受け入れた場合、その時点で派遣先から派遣社員に直接雇用を申し込んだとみなされます。
これを「労働契約申込みみなし制度」と呼んでいます。
たとえば、建設業者に施工管理として派遣された派遣社員に、派遣先の上司が、派遣禁止業務である現場作業をさせた場合を考えてみましょう。
このケースでは、上司が現場作業をさせた時点で、直接雇用を申し込んだとみなされます。
つまり、この指示は「派遣として違法なことをしろ」と命じたのではなく、「派遣契約ではなく直接雇用契約になって、合法的にこの作業をしてほしい」と申し出たのだ、と考えるわけです。
また、派遣先企業が、派遣禁止業務と知りながら、建設業務や港湾運送業務などに派遣社員を受け入れた場合は、受け入れた時点で直接雇用を申し込んだとみなされます。
この場合、派遣社員は申し込んだとみなされる日から1年以内に承諾の意思表示をすれば、直接雇用の契約が成立します。
ただし派遣先企業が、その業務が派遣禁止業務に該当することを知らなかった場合は、この制度は適用されません。
ちなみに、この制度が適用される違法派遣とは、派遣禁止業務を含む以下のものです。
① 派遣労働者を禁止業務に従事させること
② 無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
③ 事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
④ 個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
⑤ いわゆる偽装請負等
5.その他 派遣で禁止されていること
ここまで、派遣の禁止業務についてくわしく説明してきました。
が、派遣に関しては「業務」以外にも契約の内容などで禁止されていることがいくつかあります。
これらにも違反しないよう注意が必要ですので、この章で説明しておきましょう。
主な禁止事項は以下です。
- 日雇派遣(原則禁止)
- 二重派遣
- グループ企業全体の8割を超える派遣
- 偽装請負
- 派遣受け入れ可能期間を超える派遣利用
- 離職後1年以内の元社員の派遣受け入れ
- 無許可の派遣会社からの受け入れ
- 特定行為(面接・書類選考)
5-1.日雇派遣(原則禁止)
まず、労働者派遣法では「日雇派遣」を禁じています。
「日雇派遣」とは、1日ごと、または30日以内の短い期間で雇用される派遣契約を指します。
「スポット」とも呼ばれ、企業側は人手が足りない度合いに合わせて1日単位で労働者を雇うことできる便利な手段でした。
が、それでは労働者側の雇用が安定しないため、日雇派遣は原則禁止されました。
現在では、最短でも31日を超える派遣期間で、1週間の労働時間が合計20時間を超えることが派遣業務の条件となっています。
ただし、「原則禁止」といっているように、例外があります。
以下のいずれかに該当する場合は、30日以内の日雇派遣契約も可能です。
日雇派遣の例外「業務」 | 日雇派遣の例外の「場合」 |
| 日雇労働者が以下のいずれかに該当する場合
|
参照:厚生労働省「労働者派遣を行う際の主なポイント」より編集
5-2.二重派遣
「二重派遣」も禁じられています。
これは、派遣会社から派遣された派遣社員を、派遣先企業がさらに別の企業に派遣することです。
たとえば、派遣会社A社がスタッフであるBさんをC社に派遣したとします。
が、C社はBさんを自社での業務につかせず、D社に出向いて働くように指示しました。
この場合、BさんはD社とは契約を交わしていないにもかかわらず、D社の指揮命令に従って働かなければなりません。
また、C社はBさんをD社に派遣することで、仲介料などの利益を得るでしょうが、これはBさんからすれば、A社とC社の2者が介在することで自分の手元に入る給与が少なくなることにつながります。
つまり、派遣業務や派遣労働者に対する責任の所在があいまいになり、派遣労働者の利益を侵害する恐れがあるため、二重派遣は禁止されているのです。
出典:厚生労働省 平成21年度「労働者派遣事業雇用管理等援助事業」派遣相談事例集
「Q6 二重派遣は派遣法違反ですか」
5-3.グループ企業全体の8割を超える派遣
また、「グループ企業内派遣の8割規制」という規制もあります。
これは、労働者派遣法で定められたもので、派遣元(=派遣会社)は、グループ企業に労働者を派遣する際に、派遣の割合が8割以下になるようにしなければいけないという決まりです。
この「8割」というのは「労働時間」の割合を指します。
その派遣会社のすべての派遣スタッフの総労働時間を100%として、そのうちグループ企業で働く派遣スタッフの総労働時間が8割を超えてはいけません。
ちなみに、60歳以上の定年退職者はこの規制の対象外ですので、計算からは除外します。
出典:厚生労働省「グループ企業内派遣の8割規制について」
この規制は、言い換えれば「大手企業が、自社の人材を供給するために、グループ企業として派遣会社をつくってはいけない」ということです。
もしこれを許すと、企業は人件費削減のために従業員の多くを派遣にすることができてしまいます。
それでは労働者の雇用が安定しませんし、正社員など、より安定した雇用の機会が減ることにもつながるでしょう。
そのため、最低でも2割はグループ外の企業に派遣するよう定めているのです。
5-4.偽装請負
「偽装請負」とは、契約上は「請負」の形をとっていながら、実態は「派遣」と同じ扱いで労働者を働かせることです。
「請負」は、発注者から請負事業者が仕事を請け負い、請負事業者に雇用されている労働者がそれを完成させることで契約が完了します。
労働者は自分の雇用主である請負事業者の指揮命令を受けて働きます。
一方、「派遣」は派遣会社から発注者に対して労働者を派遣し、労働力を提供する契約です。
派遣労働者は、業務については派遣先企業の指揮命令に従います。
この区別を明確にせずに、「請負」契約の業務であるにかかわらず、労働者に対して発注者が指揮命令を行って仕事をさせるのは、「偽装請負」として禁じられているのです。
偽装請負をされると、労働者は「発注者の指揮命令で働いているのに、発注者とは雇用関係がなく、したがって保障や福利厚生などは受けられない」という待遇の悪い状態になってしまいます。
また、複数の企業から手数料などを搾取される恐れもあり、労働者を保護するために禁止されることとなりました。
5-5.派遣受け入れ可能期間を超える派遣利用
企業が派遣を受け入れることができる期間は、原則として3年間と決められています。
これを超えて派遣を受け入れることは、労働者派遣法違反です。
ただし、「過半数労働組合」(=労働者の過半数で組織する労働組合)から意見を聴いた上で同意が得られた場合は、派遣の受け入れ期間を最長3年延長することができます。
これに関しては、別記事「派遣の三年ルールとは?影響や適用条件、働き続ける方法を解説」にくわしく説明がありますので、そちらを参照してください。
5-6.離職後1年以内の元社員の派遣受け入れ
また、ある企業で直接雇用されていた労働者を、離職後1年以内に派遣社員として受け入れることも禁止されています。
たとえば、A社の正社員だった人が会社をやめて、半年後にまたA社に派遣社員として就業することはできません。
派遣で就業できるには、離職した日から1年待つ必要があるのです。
これは、労働者が直接雇用から派遣社員になることで、待遇が悪くなることを防ぐための禁止措置です。
この方法が許されれば、企業は正社員を派遣に切り替えて、人件費の軽減をはかる可能性があるでしょう。
そのようなことを未然に防ぎ、労働者がふさわしい待遇を受けられるように、この決まりが設けられています。
ただし、60歳以上の定年退職者は、この決まりが適用されません。
5-7.無許可の派遣会社からの受け入れ
派遣会社が派遣事業を営むためには、厚生労働大臣の許可を得なければなりません。
これがない、つまり無許可の状態で派遣業を営むのは違法ですし、無許可の派遣会社から派遣社員を受け入れることも違法です。
5-8.特定行為(面接・書類選考)
さらに、派遣先企業が派遣社員を事前に面接したり、履歴書を送らせて書類選考したり、特定の派遣スタッフを指名したりすることも禁止されています。
というのも派遣契約は、派遣会社が派遣先企業に「労働力を提供する」ものです。
企業が特定の個人を雇用する直接雇用とは異なりますので、派遣先企業は派遣社員を「選ぶ」ことはできません。
企業はこのような派遣社員に対する「特定行為」をしてはなりませんし、派遣会社もこれに協力してはいけないのです。
そのかわり、派遣社員は派遣先の業務を行えるかどうか、「職場見学」をして判断することは可能です。
実際に多くの派遣契約では、事前に職場見学が行われています。
6.まとめ
いかがでしたか?
派遣の禁止業務について、よく理解できたかと思います。
ではあらためて、記事のポイントをまとめましょう。
◎派遣の禁止業務は以下の5種
- 港湾運送業務
- 建設業務
- 警備業務
- 病院などにおける医療関係業務
- 弁護士、社労士などの士業
◎派遣禁止業務を行った場合の罰則は、
- 派遣会社に対する罰則:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 派遣先企業に対する罰則:違反の是正勧告、従わなければ社名公表
◎派遣禁止業務をさせると「労働契約申込みみなし制度」が適用される
◎その他 派遣で禁止されていることは、
- 日雇派遣(原則禁止)
- 二重派遣
- グループ企業全体の8割を超える派遣
- 偽装請負
- 派遣受け入れ可能期間を超える派遣利用
- 離職後1年以内の元社員の派遣受け入れ
- 無許可の派遣会社からの受け入れ
- 特定行為(面接・書類選考)
これらを踏まえて、あなたが法的に禁止されていない派遣業務に就いて、安心して働けるよう願っています。
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