「派遣社員も有給休暇を消化できるの?」
「有給休暇をスムーズに消化するには、どうすればよい?」
などのように、派遣社員の有給消化について、悩んでいる方は多いでしょう。
派遣社員であっても、有給休暇は消化できます。
派遣社員も、条件さえ満たせば有給休暇は発生し、発生した有給休暇を消化することは、権利として法的に認められているからです。
ただし、有給休暇の消化が権利だからといって、組織で仕事をする以上、いつでも自分の好きなように消化してよいわけではないことに注意する必要があります。
例えば「何の相談もなく、急にまとまった有給消化を行う」などの取り方をしてしまうと、業務が滞り、派遣先や周囲とのトラブルに発展してしまいかねません。
トラブルを避けるには、早めに有給休暇の取得について周囲や上司に相談し、スケジュールを調整しておくなど、有給消化の基本ポイントを押さえることが大切です。
以下のようなポイントを押さえておけば、周りに迷惑をかけたりトラブルになったりすることなく、円滑に有給消化が進められるでしょう。
この記事では、以上のような、派遣社員が有給消化をする際に役立つ基礎知識・スムーズに有給消化するために知っておくべきポイントなどを、わかりやすくご紹介します。
【この記事の内容】
- 派遣社員も有給休暇を消化できる
- 派遣社員の有給休暇に関する基礎知識
- スムーズに有給消化するために知っておくべきポイント3つ
- 派遣社員の有給消化でよくある疑問
後半では、派遣社員の有給消化でよくある疑問についても、まとめて解説しています。有給消化に関する不安を解消するためにも、ぜひチェックしてみてください。
今回ご紹介する内容を読むことで、派遣社員が有給消化をする上で知っておくべき基本的な知識を身に付け、有給消化をスムーズに進められるようになります。せっかく取得した有給休暇を有効活用するためにも、基本的なことから理解しておきましょう。
目次
1. 派遣社員も有給消化は権利として認められている!
派遣社員も、有給を消化することはできます。有給休暇が発生した以上、正社員・派遣社員の区別なく、消化することは権利として認められているからです。
スケジュールを調整し、やるべきことをきちんとこなしてさえいれば、当然、有給を消化することは何の問題もありません。
ただし、有給消化を検討する前に、有給休暇の発生条件や時季変更権について正しく理解しておかないと、スムーズな消化が難しくなります。
そこで、ここでは、有給消化の大前提となる基礎知識について確認しておきましょう。
また、派遣社員の有給休暇の取得に関するよくある疑問については、「4. 派遣社員の有給消化でよくある疑問3選」で解説しますので、あわせてご確認ください。
1-1. 派遣社員も条件を満たせば有給休暇が発生する
派遣社員も条件を満たせば有給休暇が発生し、その発生した有給休暇を取得することは、権利として認められています。有給休暇の発生条件とは、以下の2つを両方とも満たすことです。
◆有給休暇が発生する条件
- 雇用されてから継続して6ヶ月以上、勤務している
- すべての労働日のうち8割以上、出勤している
派遣の場合、有給休暇は派遣元で発生するので、「継続して6ヶ月以上勤務」の6ヶ月は、派遣元が変わらなければ通算することができます。
例えば、A会社に3ヶ月派遣されて、その後すぐにB会社に3ヶ月以上派遣されれば、通算すると6ヶ月以上勤務しているので有給休暇が発生するということです。
派遣先の忙しさなどの状況次第にはなりますが、有給休暇の取得は権利なので、まとめて有給消化をすることもできます。
ただし、次項で説明するとおり、派遣元の企業にも「時季変更権」という権利があるので、希望どおりの日時に必ず有給休暇が取得できるとは限らないことに注意しましょう。
1-2. 【注意】ただし、思った通りの日にちに休めない場合がある
派遣元の企業には、派遣社員の有給休暇の取得に対して、時季変更権という権利があります。
時季変更権とは、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限って、申請された有給休暇の取得日を変更できる権利のことです。労働基準法第39条第5項で認められています。ただし、権利とはいえ、企業側が時季変更権を使って有給休暇の日にちを変更するには、労働者の同意が必要です。
派遣の場合の「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、「派遣元」の運営が妨げられることを意味します。具体的には、代わりのスタッフを準備できないので、人員が足りなくなって仕事が回らなくなる、といった状況のことです。
「時季変更権によって、思ったとおりの日にちに休めない」という事態を避けるためには、休みたい日の少なくとも2週間以上前には、派遣元に相談するようにしましょう。また、会社によって、有給休暇の申請期限を設けているので、マイページや派遣元の担当者などに確認しておくと安心です。
◆時季変更権に関するポイント
- 企業側に時季変更権があるので、思ったとおりの日にちに休めない場合がある
- 少なくとも休む日の2週間以上前など、早めに派遣元に相談や申請をすると、希望する日に休みやすい
2. 派遣社員の有給休暇に関する基礎知
派遣社員も有給消化が可能であることがわかったところで、次に押さえておくべきことは、消化できる有給休暇は何日あるのか、ということです。
有給休暇が発生していることはわかっていても、何日残っているのか正しく把握できていないと、計画的に消化できませんよね。
ここでは、有給休暇の残日数を正しく把握するために欠かせない、
- 有給休暇の付与日数
- 有給休暇が消えるタイミング
の2つについて、チェックしておきましょう。
2-1. 派遣社員の有給休暇の付与日数
有給休暇の付与日数は、勤続年数に応じて増えていきます。
週所定労働時間が30時間以上の一般的な労働者であれば、「6ヶ月で10日、1年半で11日…」と段階的に増えていき、勤続年数が6年半を経過したところで、有給休暇の付与日数は最大の20日になります。
勤続年数ごとの有給休暇の付与日数を以下にまとめますので、自分は何日間付与されるのかを確認する参考にしてみてください。
勤続年数ごとの有給休暇の付与日数 | |
勤続年数 | 有給休暇の付与日数 |
6ヶ月 | 10日 |
1年半 | 11日 |
2年半 | 12日 |
3年半 | 14日 |
4年半 | 16日 |
5年半 | 18日 |
6年半以降 | 20日 |
※参考:厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」
上記のルールで付与される有給休暇ですが、時間の経過などで消滅することもあるため、注意が必要です。どういうタイミングで有給休暇が消えることがあるのか、次項で確認しておきましょう。
2-2. 派遣社員の有給休暇が消えるタイミング
せっかく付与された有給休暇が消えてしまう可能性があるタイミングとして、注意すべきなのが次の3つです。
◆有給休暇が消えるタイミング
- 消滅時効で2年で消える
- 1ヶ月超の空白期間で消える
- 派遣元を変わる
どういうことなのか、順番に説明していきます。有給休暇を確実に消化するためにも、消滅するタイミングについて正しく把握し、消える前に休みを取りましょう。
2-2-1. 【派遣社員の有給休暇が消えるタイミング 1】2年の消滅時効
有給休暇は、付与された日から2年が経過すると、原則として消えてしまいます。
付与された年に消化しなかった有給休暇は翌年に繰越すことが可能ですが、付与日から2年経つと、消滅時効にかかり自動的に消えてしまうからです。
例えば、勤続年数が6年半以上ある派遣社員が今年度20日間有給休暇を付与され、1日も使えないまま翌年度を迎えると、40日間有給休暇を使える状態になります。しかし、そのうち20日は、原則として付与日から2年経てばすべて消えてしまうということです。
ただし例外的に、個別の派遣元企業で、消えるタイミングを2年以上に延ばすこともできます。
「未消化の有給休暇は繰り越せるから」と、消化を先延ばしにし過ぎないようにしましょう。また、「いつまでに消化しないと消えてしまうのか」自分で管理しておくことが大切です。
2-2-2. 【派遣社員の有給休暇が消えるタイミング 2】1ヶ月超の空白期間
派遣社員に特有の、有給休暇が消えるタイミングが、次の派遣先が決まるまでの空白期間が1ヶ月超の場合です。
派遣先が変更になるときに、空白期間が1ヶ月を超えると、有給休暇の付与条件である継続勤務の条件を満たせなくなるからです。
仮に1ヶ月超の空白期間が空くと、有給休暇について、以下の2つのデメリットがあります。
◆1ヶ月超の空白期間のデメリット2つ
- 前の派遣先で発生した有給休暇が消滅する
- 有給休暇の付与日数の基準となる勤続年数がリセットされる
勤続年数がリセットされると、有給休暇の付与日数は、10日に戻ってしまいます。
なお、有給休暇などが消えてしまう空白期間は、派遣元によって異なることを覚えておきましょう。次の派遣先が決まるまでの空白期間を、1ヶ月超と設定している企業もあれば、3ヶ月超としている企業などもあります。
派遣元の担当者などに、空白期間を何ヶ月に設定しているのか、事前に確認しておくとよいでしょう。
2-2-3. 【派遣社員の有給休暇が消えるタイミング 3】派遣元の変更
一度付与された有給休暇は、派遣先が変わっても繰り越し可能ですが、派遣元を変わると繰り越しはできず消滅します。
有給休暇は、各雇用先で発生するものなので、雇用先である派遣元を変えてしまうと、有給休暇も消えてしまうからです。
「派遣先が変更しても、有給休暇は繰り越せるから」と、つい油断して有給消化をしないままに、派遣元を変更してしまうことのないよう注意しましょう。
3. 派遣社員がスムーズに有給消化するために知っておくべきポイント3つ
有給休暇をスムーズに消化するためには、押さえるべきポイントが3つあります。
スムーズに有給消化するために知っておくべきポイント3つ |
1. 有給消化の相談は早めに行う 2. 退職時は引継ぎに注意する 3. 有給申請の基本的な流れを把握しておく |
有給消化をしようとしたら「取得できなかった」「トラブルに発展した」ということのないように、どういうところがポイントとなるのか、しっかりと確認しておきましょう。
3-1. 【派遣社員のスムーズな有給消化のポイント 1】有給消化の相談は早めに行う
スムーズに有給消化するには、とにかく早めの相談が欠かせません。
特に、業務の繁忙期がある場合は、直前に相談したのではスケジュールの調整がつかず、有給消化が難しくなってしまうからです。具体的な目安としては2週間程度前までには、相談しておくのがおすすめです。
派遣元の企業に相談し申請することはもちろんですが、派遣先の企業に対しても、有給休暇を消化したい旨を伝えておきましょう。
事前に派遣先のメンバーや上司に伝えておくことで、有給消化中に閲覧が必要になりそうな資料を共有するなど、業務が滞らないように準備できるからです。
有給消化は権利とはいえ、お休み中は職場の人にフォローしてもらうことになるので、きちんと配慮をするようにしましょう。
3-2. 【派遣社員のスムーズな有給消化のポイント 2】有給申請の基本的な流れを把握しておく
スムーズに有給消化するには、有給休暇を申請する基本的な流れを把握しておくことも大切です。
派遣元によっては、有給休暇の申請期限が決まっていたり、派遣先との調整などをすべて自分ですることになっていたりする場合があるからです。
そのため、事前に具体的な有給休暇取得の手続きを把握し、計画的に動いていかないと、希望どおりの日程に休めないリスクが高くなってしまいます。
有給申請の基本的な流れは、派遣元の担当者に確認すれば、わかります。
なお、一般的な有給申請までの基本的な流れは、以下のとおりですので、参考にしてみてください。
◆一般的な有給申請の基本的な流れ
(1) 派遣元の担当者に有給休暇を取得したいこと、希望日時などを伝える
(2) 有給休暇を取得する予定を派遣先に伝え、日程を調整する
(3) スケジュール調整できた日にちに有給休暇を申請する
※申請は、派遣元に対して行う
このとおり、スムーズに有給消化するには、事前の根回し・準備がとても大切です。
3-3. 【派遣社員のスムーズな有給消化のポイント 3】退職時は引継ぎに注意する
退職のタイミングでまとめて有給消化したいと考えているなら、引継ぎがおろそかにならないよう、注意する必要があります。
業務の引継ぎは、自分だけでなく、相手のスケジュールも含めて日程を調整する必要があるからです。有給消化を優先させようとすると、引継ぎの時間が十分に取れず、後任の人にも派遣先の企業にも迷惑が掛かってしまいます。
派遣先企業によっては、引継ぎが十分にできないスケジュールで有給消化をしようとすると、トラブルに発展するリスクもあるでしょう。
退職時の有給消化は、まず引継ぎの計画をきちんと立てた上で、進めるようにしてください。
4. 派遣社員の有給消化でよくある疑問3選
派遣社員の有給消化は権利ではありますが、「拒否される」「理由を聞かれる」など、スムーズに取得しづらいケースもあります。
そういった、すんなり有給消化が進まない場合の対応策を前もって知っておくことで、有給休暇取得のハードルを下げることができるでしょう。
ここでは、よくある有給消化にまつわる疑問について、どうすべきなのかをお答えします。
派遣社員の有給消化でよくある疑問3選 | |
よくある疑問 | 回答 |
(1) 拒否されたらどうすればよい? |
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(2) 理由を聞かれたら答えないといけない? |
|
(3) 有給休暇の買取は可能? |
|
困ったときの対応を、よりスマートなものにするためにも、ぜひチェックしてみてください。
4-1. 【派遣社員の有給消化でよくある疑問 1】拒否されたらどうすればよい?
繰り返しになりますが、派遣社員の有給消化は権利です。
しかし、派遣元の担当者や派遣先のメンバーに難色を示されて、取れない・事実上拒否される、というケースもあるでしょう。
このような場合には、以下のとおり、最終的には労働基準監督署という専門家に相談するのがおすすめです。
【よくある疑問 1】拒否されたらどうすればよい? | |
回答 |
|
労働基準監督署とは、労働基準法に関係する相談を幅広く受け付けている機関です。今回のような有給消化の拒否をはじめとして、サービス残業・手当の不支給など、さまざまなトラブルの相談にのってもらえます。
また、労働基準監督署は、必要に応じて企業に話を聞いたり行政指導をしたりして、トラブルを解決に導くことが可能です。
相談する際は、厚生労働省のホームページから、お近くの労働基準監督署を探しましょう。
◆【参考】労働基準法第39条とは?
- 年次有給休暇に関する条文
- 有給休暇の対象者、付与日数、取得義務などについて記載
- 第39条に違反すると、最大で6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金の対象となる(労働基準法第119・120条などに規定)
4-2. 【派遣社員の有給消化でよくある疑問 2】理由を聞かれたら答えないといけない?
有給消化の相談をするときによくあるのが、理由を聞かれて困ってしまうケースです。「大したことのない理由だけど、答えないとダメ?」と思った経験をした方は、意外と多いでしょう。
結論としては、有給消化のとき、理由を答える必要性はありません。有給休暇の取得は法的権利で、特に理由がなくても取得できるからです。
そのため、業務に支障がない限り、大したことのない理由で休むのも問題なければ、理由をきちんと説明しないと休めないというものでもありません。
【よくある疑問 2】理由を聞かれたら答えないといけない? | |
回答 |
|
4-3. 【派遣社員の有給消化でよくある疑問 3】有給休暇の買取は可能?
よくある疑問の3つ目は、有給休暇の買取は可能なのかという点です。まずは、回答を見てみましょう。
【よくある疑問 3】有給休暇の買取は可能? | |
回答 |
|
そもそも有給休暇は、きちんと休みを取って心身の健康を保ったり、ワークライフバランスを改善させたりすることを目的としている制度です。
制限なく有給休暇の買取ができると、「きちんと休む」という制度の目的が達成できなくなるので、原則として買取はできません。
ただし、以下のような条件を満たす場合、例外的に買取ができます。ただし、買取が可能であるだけで、買い取るかどうかは、各企業の取り決めによることに注意しましょう。
◆有給休暇の買取ができる場合
- 法律で決まっている付与日数を超える部分
- 退職する時点で残っている有給休暇
- 消滅時効の2年を過ぎている有給休暇
法律で決まっている付与日数を超える部分とは、例えば、「勤続年数6ヶ月の付与日数は10日」ですが、就業規則などで11日付与している場合の10日を超える部分(1日)のことです。
「法律で決まっている付与日数を超える部分」の例 ※勤続年数6ヶ月の場合 | ||
法律上の付与日数 | その企業の付与日数 | 法律で決まっている付与日数を超える部分 |
10日 | 11日 | 1日 |
5. まとめ
派遣社員も、スケジュールを調整し、やるべきことをきちんとこなしてさえいれば、発生した有給休暇を消化することは何の問題もありません。
なお、有給休暇が発生する条件は、以下のとおりです。
◆有給休暇が発生する条件
- 雇用されてから継続して6ヶ月以上、勤務している
- すべての労働日のうち8割以上、出勤している
ただし、派遣元の企業にも「時季変更権」という権利があるので、希望どおりの日時に必ず有給休暇が取得できるとは限らないことに、注意しましょう。
また、スムーズに有給消化するには、残日数を正しく把握することが欠かせません。有給休暇の付与日数は、以下のとおりです。
勤続年数ごとの有給休暇の付与日数 | |
勤続年数 | 有給休暇の付与日数 |
6ヶ月 | 10日 |
1年半 | 11日 |
2年半 | 12日 |
3年半 | 14日 |
4年半 | 16日 |
5年半 | 18日 |
6年半以降 | 20日 |
また、発生した有給休暇が消えてしまうこともあるので、注意しましょう。
◆有給休暇が消えるタイミング
- 消滅時効で2年で消える
- 1ヶ月超の空白期間で消える
- 派遣元を変わる
有給休暇をスムーズに消化するためには、押さえるべきポイントが3つあります。
スムーズに有給消化するために知っておくべきポイント3つ |
1. 有給消化の相談は早めに行う 2. 退職時は引継ぎに注意する 3. 有給申請の基本的な流れを把握しておく |
派遣にも、有給消化は権利として認められています。今回ご紹介した内容を参考に、勤務先にも十分に配慮した上で、有給休暇を積極的に有効利用してみましょう。
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